第9話 バレンタイン反省会 1/3
「ちょっと遅くなっちゃったけど、はい。これ、バレンタインのチョコ。こうちゃんと、ゆっきーの分」
「ありがとな、千恵ちゃん。ほんと千恵ちゃんいい子だよなぁ……あれっ?でもこれ……ま、いっか」
「ありがとう、千恵ちゃん。有難く頂戴するよ」
毎年、バレンタインを過ぎた次の休みの日には、俺の家で『バレンタイン反省会』なるものを行っている。
何故『反省会』なのか俺には全く理解ができない。だけど毎年『反省会』と称して、光希と幸成は俺の家にやってくる。
そして毎年、千恵からチョコを貰っている。
光希は未だに千恵の頭をクシャクシャと撫でる。まるで小学生を相手にしているような感じだ。千恵が保育園の時から知っているとは言え、今の千恵はもう中学2年なのだから、兄としてはいい加減やめて欲しいものだが、当の千恵が喜んでいるのだから何も言えない。
幸成はさすがに、出会った頃は既に千恵ももう小学校高学年だったからか、光希みたいなことはしないけれども、目を細めて優し気な笑顔を千恵に向けている。
……俺には滅多に見せない笑顔だ。
ちなみに、バレンタインの日は、不服そうな千恵を説き伏せて父さんにもチョコを渡させた。
ちょうど前日だか前々日だかに父さんと喧嘩をしたらしく、最初は『絶対に渡したくない!』と言い張っていたのだけれども、『家族の雰囲気が悪いのは、兄ちゃんはできれば避けたいなぁ……チョコひとつで父さんの機嫌が良くなるんなら、安いもんじゃないか?頼むよ、千恵』と、最後は頼み込むような感じで。
千恵はムスッとした顔のまま、会社から帰ってきた父さんに『んっ!』とチョコを押し付けるようにして渡していた。
ツンデレか⁉
とツッコミたくなるような渡し方だったが、千恵からのバレンタインのチョコを貰った父さんは、朝とは雲泥の差で上機嫌だった。そして、『ありがとう』とニコニコと嬉しそうに笑う父さんにつられたのか、千恵も最終的には照れ臭そうに笑っていた。
……あんな、ツンデレな渡し方も結構キュンと来るかも。
なんて、俺がこっそり思っていたことは、千恵には内緒だ。
さて、バレンタイン反省会。
まずはお互いに、貰った数と、誰から貰ったかの報告だ。
「俺、5個。クラスの女子から2個と、部活の先輩から2個と、千恵ちゃんから1個!まぁ、全部義理だろうな、残念ながら」
と報告したのは、光希。
報告しながら早速、千恵が渡したチョコを頬張っている。
「うっま!これうっま!千恵ちゃんお菓子作り上手いなぁ……」
そうだろうそうだろう。
俺の妹はきっと天才なのだよ、光希。
なんてことは、思うだけで口に出さないに限る。揶揄われるに決まっているから。
「俺は、まずは千恵ちゃんからの1個と、それから、誰か分からんが机の中に3つ入っていた。あとは部活内で3つ貰ったが、今年は俺からも1つ渡したよ」
と報告したのは、幸成。
幸成は割とクールだから、手渡しするのは近しい関係の間柄にならないと、結構勇気がいるのかもしれない。
そして……えっ?渡したっ⁉
「なんだ、逆チョコか?」
「別にいいだろう?日頃世話になってる先輩なんだ」
揶揄い口調の光希に、幸成は珍しく目元を薄っすらと染めている。
これは幸成の話をもっと詳しく聞きたいぞ。
そう思って口を開きかけたとたん、
「で、お前はどうなんだ、輝良」
と、先に幸成に牽制されてしまった。
……こういうところ、躱し方が上手いって言うかなんていうか。
ずるいなぁ、幸成は。
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