第5話 波乱のバレンタイン 5/8

「「「おはよう、辻君」」」


 俺から少し距離を置いたところで、何故だか女子3人組はモジモジとしてお互いをけん制しているような促しているようなそんな不思議な空気。


「うん、おはよう」


 俺としては、時間も迫っていたし早く教室に行きたかったのだけど、女子3人組は立ち止まったまま。


「なぁ、早く教室行かないと遅刻するぞ?」


 そう声をかけると、女子3人組は一気に俺との距離を詰めて来た。


「おわっ!なっ、なにっ⁉」

「あのっ、これっ!」

「私もっ!」

「私のも!受け取って!」


 驚く俺にズイッと差し出されたのは、それぞれに可愛くラッピングされた小さな箱。


 そっか、今日バレンタインだった。

 でも俺、この女子3人組とはあんまり話した事無かったんだけどなぁ?なんでだろう?


「俺に?」

「「「うん!」」」


 一応確認すると、女子3人組は同時に大きく頷く。

 なので、有難く頂戴することにした。


「ありがとう」


 俺が3人からそれぞれ小さな箱を受け取ると、3人はとたんにキャッキャと笑い声を上げながら、俺を置いて校舎の中へと入っていく。


 いや、この状況でなんで俺置いてけぼり?同じクラスなんだから、一緒に行けば良くね?う~ん……


 複雑な気持ちになりながらも、俺は鞄のサイドポケットから千恵が入れておいてくれたエコバッグを取り出し、今貰ったばかりの小さな箱を3つ、その中へと入れる。

 そして急ぎ足で教室へと向かったのだった。


 教室に入ると、すぐに明恵の視線が俺に刺さった。

 膨らんだエコバッグに目を止めた明恵は、その目で俺を見ると、ニコリともせずにフイッと視線を逸らしてしまう。


 なんだなんだ?


 首を傾げていると、光希がそばに来て俺の肩を抱き、耳元で囁いた。


「なんだよ、もう貰ったのかよ。さすがだな、輝良」

「うん、良く分からんけど、せっかくだから貰った」

「良く分からんて、お前」

「だって俺、あんまり話した事無いし。なんで俺なんだろな?ちょうど俺ひとりでいたから、渡しやすかったのかな?」

「……お前なぁ……」


 そう言って俺から体を離しながら、光希は呆れたように俺を見る。ため息のおまけまで付けて。


 なんだよその目は。

 俺、何か変な事言ったか?


 光希はたまに、こんな目で俺を見る。

 何故だかはよく分からん。

 そういや、幸成もたまにこんな目で俺を見る。


 ……俺、なんか変なことしてるのか?

 意味分からんっ!

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