第3話 波乱のバレンタイン 3/8

 光希とは小学校からの付き合いだ。当然、千恵の事も知っている。

 俺ほどではないけど、光希も千恵の事は可愛がってくれているようで、何くれとなく心配してくれる。

 光希には弟はいるけど妹はいないから、余計に千恵を可愛がってくれるのかもしれない。

 ちなみに、光希の弟は佳希よしきといって、千恵と同じ学校で同じ学年だ。


「千恵ちゃん、結構モテるらしいぞ。佳希が言ってた。可愛い上にいい子だもん、そりゃモテるよなぁ」

「へ~」


 千恵は可愛い上にいい子だ。それは間違いない。兄の俺が保証する。

 だけど、モテると聞くとやっぱり、嬉しい反面心配になる。

 妹の恋路を邪魔する気は毛頭ないが、悪い虫が付くのはやっぱりなぁ。


「おっ、今一瞬兄貴の顔になったな?」

「揶揄うなよ。でも俺は、千恵に誰か好きな人がいるなら、兄として応援するつもりだぞ?」

「そうかいそうかい」

「なんだその『全然信じてません』な相槌はっ!」

「信じられる訳ないだろ、妹大好きなお前のそんな言葉」

「ほんとだって!」


 もちろんこの間も、明恵は俺たちのすぐ後ろを歩いている。当然会話は全部聞いているだろう。

 聞かれてまずい話をしている訳ではないから一向に構わないのだが、こんな俺達の会話なんかずっと聞いていて、明恵は楽しいのだろうか?


「それにしてもお前は今年何個貰えるんだろうなぁ~」


 なんて、空を見上げながらそう呟いて、光希はニヤリと俺を見る。


「どうだろうな?」

「とか言って、しっかり持ってきてるじゃないか、エコバッグ」

「バカ言え、そんなの持ってくる訳……あれっ?」


 ニヤニヤと笑う光希の視線を辿ると、俺の鞄のサイドポケットから、見覚えのあるエコバッグがはみ出しているのが見えた。

 間違いない、千恵がいつも使っているエコバッグだ。


「これは千恵の」

「マジで⁉分かってる~、千恵ちゃん。ほんと、できた妹だよなぁ……羨ましい~!俺、千恵ちゃんみたいな彼女が欲しいなぁ。告っちゃおうかなぁ」

「ふざけんな。千恵が許しても俺が許さん」

「なんでだよ、頼みますよ、お義兄にいさんっ!」

「やめれ」


 光希が言うと冗談に聞こえないから怖い。

 もしかして、光希は本当に千恵の事が好きなんだろうか?

 そりゃ、親友とも呼べる光希の恋路を邪魔するつもりも毛頭ないが、相手が千恵となると話は別だ。


 でも、千恵も光希の事が好きだ、なんて言い出したら、俺はどうすりゃいいんだろうか……

 やめやめっ!

 そんなの、そうなった時に考えればいいんだっ!

 今はそうならないように祈っておこう。

 ……別に光希が千恵の相手じゃダメっていう訳じゃ、無いんだけど。なんだろうな、この拒絶感は。


 少し歩く速度を速めて光希から距離を取りながら学校の門を抜けると、俺は少し前に知っている姿を見つけて駆け寄った。

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