第5話 さようなら先生
今日も小守さんは漏れそうになっていた。
だが、ギリギリで耐えてスッキリして帰ってきた。俺はその度に妙な気分に陥っていた。
本当にこれでいいのだろうか。
けど、小守さんは俺の元へ帰ってくる。
安心た顔で。
そんな風に安堵されると、悪い気はしないけどな。
「おかえり」
「ただいま、霧島くん」
「すっきりした?」
「うん。もう大丈夫! じゃあ、ご飯にしよっ」
「そうだな」
食堂でお昼を済ませ、残り時間は体育館でのんびりすることに。
「ここは落ち着くね」
「そうだな。外は暑いし」
小守さんと二人きりで昼を過ごす。なんて有意義なんだ。
こんな時間が永遠に続けばいいのに。
しかし、幸せは直ぐ逃げていく。
俺は目の前に現れた人物に視界を曇らせた。
なんで……。
「霧島くん」
「岩井先生、なんですか……」
そう岩井先生が俺に声を掛けてきたんだ。
朝はあの後、会うことがなくて……もう終わったと思った。でも、先生が自ら俺のところへ来るとはな。
「朝はごめんなさい」
「もういいですよ。あの西野とよろしくやればいいです」
「で、でも……」
「もう俺と先生の関係は終わった。それでいいじゃないですか」
俺はつめたく突き放した。
終わったんだ。
なにかも。
それなのに岩井先生は、何度も食い下がる。
「お願い」
「お願いって、なんで今更そんなこと言うんですか。アイツと寝たクセに」
「……っ」
それが真実。変えられない事実なのだ。
そんな風に浮気する人とは付き合えない。
辛いけど、俺はもうあんな思いだけはしたくない。
だからこそ、先生とは別れる。
「もういいでしょう」
「……そ、その保健室だけでも」
「行きませんよ」
捨てるように言い放つ俺。
そんな重苦しい空気の中、小守さんが動き出した。
「岩井先生……最低ですよ」
「え……。こ、小守さん、なにを言うの?」
「これ以上は、霧島くんが可哀想です」
「小守さんに何が分かるの」
「分かりますよ。だって、霧島くんとわたしは付き合っているのですから」
小守さんは大胆にも俺の腕に絡みついてきた。頭を預けてきた。
良い匂いがした。
この光景を見て岩井先生は、驚いていた。
「そ、そんな……。霧島くん」
「……別にいいでしょう。俺が誰と付き合っていても」
俺にだって選ぶ権利がある。
それに、俺は小守さんが好きになりつつあった。
彼女は俺のそばにいてくれるし、笑顔を向けてくれる。
守りたい、そんな気持ちにさせてくれる。
「…………そ、そうよね」
「さようなら先生。俺と小守さんは行きます」
「……うん」
別れを告げ、俺は先生との関係を精算した。これでもう関わることはない。
「良かったの、霧島くん」
「ああ、もうスッキリした。これからは小守さんの我慢を見届けるというか、サポートするというか。まあ、そばにいるよ」
「ありがとう。そうしてくれると助かる」
そう言ってくれるなら、まあいいか。
俺は小守さんと共に教室へ戻った。
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