Part,15 We have not seen that yet.



 翌朝、光斬をはじめとした神楽隊は、風葉によって福岡支部の地下にある総合演習場に集められていた。「魔剣を持った上に強化装備を着用した状態で集まるように」との指示だったため、何かしらの訓練なのだろう。初訓練ということもあり、光斬とネセントは気合いが入っていた。

 総合演習場はテニスコート12面が余裕で入るほどの大きさであり、特殊な空調システムを使用しており尚地下であるため、窓がなく全面が白い空間で包まれている。更に、地下100mという分厚い地層による壁があるため防音性にも長けており、緊急用シェルターとしての機能も果たす。



 「光斬君とネセントちゃんは今日から訓練参加だよね。楽しく訓練していこう」



 風葉は少し緊張していた2人に優しく言うと、早速訓練を始めた。



 「ネセントちゃんは魔法使えるから、今回の訓練はひたすら魔法の精度を高めること。彩葉、夏芽。一緒に魔法の精度を高めておいて」


 「はいはーい」


 「了解です」



 すると、3人は魔法だけを使った模擬戦を始めだした。一気にこの空間内にそれぞれ色の違う魔法陣が何個も現れて、その魔法陣から様々な魔法が放たれる。風葉は気にする様子を全く見せずに彼の元に近づく。



 「んで、光斬君は魔法の基本を知らないから、まずはそこから教えていくよ」


 「お願いします」


 「じゃあまず質問なんだけど、魔力ってどんなものか知ってる?」



 風葉の質問は極めてアバウトなものだった。知識としての回答なのか、それとも体感したことあるのかという、2つの意味に聞き取ることができる。彼は知識としての意味だと聞き取ったが、それでもよくわからなかった。



 「いや、全くわかんないっす。知識面でもわかんないですし、肌感もわかんないっすね」


 「あちゃー……。こりゃ骨が折れそうだなぁ……」



 額に手を当てて、小声で呟く風葉。光斬にはそれが聞こえなかったため、何が起こっているのかよくわからなくて顔を顰める。手を下ろして彼を見上げると、



 「まず、簡単に魔力の説明をするね」



 『魔力。それはこの世界に満ち溢れたひとつのエネルギー。地球上にある物質とはかけ離れた原子構造をしており、科学では説明不可な未知のエネルギー。その魔力はあらゆるものに宿っており、それを駆使してこの世界の生物は生きている』



 「わかったような、わかってないような……」


 「ま、簡単に言うと『魔力は色んなことに使える、科学とはまた別の法則を持った物質』って感じかな」


 「なるほど……」



 噛み砕いた説明でなんとか内容が掴めた彼は、その魔力では一体何ができるのか疑問に思ったが、それは一瞬で理解できた。



 「魔法に使えるってことか……!!」


 「そういうこと!」



 でも、彼はすぐにテンションを落とす。



 「どしたの?」



 テンションが急降下した彼を見た風葉は、何かあったのかと不安になる。だが、そんな不安も次の一言で完全に吹き飛ばされる。



 「魔力って言われても、見たことないから実感がまったく湧かねぇ……」



 魔法陣として目に見える形になっている状態であれば光斬も見たことがあるが、魔力自体は姿形を見たことがない。今の光斬は「想像力が足りず、魔力というものを実感が湧かないと捉えることができない」といった状況になっている。風葉は、彼がどんな考えをしているのかだいたいわかっていた。なぜなら、自分も同じ経験をしたから。



 「私も実はね、光斬君と同じ経験してるんだ。実感が湧かないと魔力っていうのは捉えにくいものだし、なんなら私もつい半年前まで魔力を捉えられなかったの」


 「……じゃあ、どうやって捉えれたんすか?」



 誰もが疑問に思うことだろう。急な覚醒なんてあったものじゃない。つい半年前まで魔力を捉えることもできなかった人が、人に教えれるほど魔法の扱いに長けるほど成長するということは、それなりの方法があるということだ。



 「魔力の感覚を知ってる人から、直接魔流に刺激を与えるの。ちなみに魔流っていうのは『身体に流れる魔力の流れ』ね」


 「魔流に刺激したら何が起こるんすか?」


 「えっとね。多分、体験した方がわかりやすいと思うよ」



 すると、風葉は彼の後ろまで歩いて回り、肩甲骨の間に右手を置き、その上に左手を置く。手は交差させて、肘は伸ばして、「体から力を抜いて」と彼に言う。するとそのまま体から力を抜いてくれたため、風葉自身も息を吐きながら力を抜く。



 「力を抜きながら、身体中の感覚に集中してね」



 光斬は風葉に言われたことを忠実に守り、身体中の感覚に集中する。すると、身体中から未だ感じたことがない感覚が波打っているのがわかる。



 「今、体の中で波打ってるのが魔力。わかる?」


 「わかるっす」


 「じゃあ、それを手のひらから出す感覚で魔力を動かしてみて」



 光斬は腕を曲げて右手の掌を上に向けた状態にしておくと、目を閉じて魔力をゆっくり動かす。身体の中で、魔流の流れに従うように魔力を動かす。手の近くに到達した魔力を掌から放出していくと、目には見えないがとても大きなエネルギーを顔の前で蠢いているのがわかった。



 (……どうなってんだ?)



 風葉は目を点にして、光斬の掌から放たれる魔力を見る。魔力を感じたのか、模擬戦で結構激しめに戦っていた3人も戦いをやめて光斬の魔力を見る。その全員が目を点にしているため、光斬は何が起こっているのか全くわからなくて困惑していた。

 10秒ほどその沈黙が続いた時、風葉は何度か瞬きをしてから光斬に、今の状況を話す。



 「簡潔に言うんだけど、光斬君の魔力には……」



 風葉はひとつ息を飲んでから言う。






      「色がなかった」





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