Part,16 Imaginative fool
「簡潔に言えば、光斬君の魔力には色がなかった」
風葉は自分の掌から魔力を放出すると、真紅に染まった魔力を放出する。3人も同じようにすると、彩葉は灰色、夏芽は水色、ネセントは赤色と金色、紫色、灰色が綺麗なグラデーションとなっている形となり、それぞれ色がついた魔力を出す。
「私達の魔力は基本的に色があって、この色で適正属性を測るんだけど、その色が光斬君にはないの」
「……どゆこと?」
光斬は風葉が言っていることがよくわからなかった。
「えーとね。一言で言うと、光斬君は『異端』」
「異端か……」
光斬は、自身が異端な存在であることを受け止める。が、その場にいた全員はまだ魔力に色がないことを受け止めきれずにいた。それは、異端であることを伝えた風葉も、光斬のすぐ近くで数日を共に過ごしたネセントでさえも。
受け止める時間だけが流れ、総合演習場は静寂に包まれる。そんな中、光斬だけは冷静に考えていた。
(魔法ってことはさ、……バフみたいなのはある?)
「なあ、そのなんたら属性みたいなのがなくても使える魔法みたいなのは無いんすか?」
これまでやってきたゲームなどの知識を踏まえて、魔法があるゲームには仲間のステータスにバフをかけたり、敵にデバフを与えたりするため、本物の魔法にもそれは当てはまるのではないかと考えた。たいていのバフ、デバフ魔法は大抵のキャラクターが覚えることができたりして、属性がないことが多い。
先人というものは何かと変なところに詳しかったりする。これも先人が我々に、娯楽として形を変えて与えた、立派な『知識』なのだろう。……知らんけど。
「え? ま、まあ……。一応あるにはあるけど……」
風葉はそう答えると、光斬は何食わぬ顔で言う。
「じゃあ、俺の魔力がどんなもんかわかるまでは、その魔法練習すりゃいいじゃないっすか。何難しく考えてんすか……?」
光斬を除いた4人は、光斬がさぞ当たり前のように言うため、「無知な者程怖いものはない」と思った。特に教えていた風葉はバカにされたかのようにも聞こえたため、後で何かしらの形でボコボコにしようと思った。無知な者程怖いものはない。
(今の魔王が光斬を見たら、何を思い浮かべるんだろう……)
ネセントは、光斬の出す無色の魔力を見て思い浮かべる。その様子をただ1人見ていた光斬は、徐々に真剣な顔になっていくのを見逃さなかった。
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光斬は1度出した魔力を体に纏わせ、頭の中で魔法を使う意識を集中する。
『身体強化・弱』
すると、無理矢理纏わせていただけの魔力は完全に光斬の体を完全に纏い、1度軽くジャンプしようとしただけで5m程跳んだ。
(強化装備を付けてるとはいえ、跳ねようとしただけでこんなに跳ぶのかよ……)
想像以上の強化量に驚いた光斬は、見事なまでの着地を見せた後、風葉から出来栄えを評価される。
「初めてにしては凄すぎる出来栄えだよ。実践に放り出しても全然通用するよ」
「マジっすか?」
「マジマジ。見た感じ、そもそもの魔力量が結構多いから、属性魔法も使えたら良かったんだけどね」
「もしかしたら新種かもしれないっすよ」
「対フェミーバー業界、魔法業界がひっくり返るなぁ……」
この調子で光斬は、属性がなくても使える身体強化、防御、治癒の3種類の魔法を1日で一通り履修した。
「今やったのが基本魔法っていう種類の魔法ね。本来なら魔法式を使ったり、基礎から丁寧に教えるんだけど、今はそんなことしてる暇ないから。仕方ないよね」
「仕方ないっすね。しかもそんなこと言われたら、……魔法式? 俺、数学苦手なんで頭こんがらがるっすよ」
すると、風葉の元に一通の通知が入る。
「あ、もう5時か……」
すると、風葉の声を聞いた彩葉と夏芽は訓練を中止する。共に訓練していたネセントは何の事かと思い、風葉の言葉を聞く。
「毎週月曜日の夕方頃5時になったら、福岡支部の周囲の警備を1時間行うの。2人は初めてだろうから、今回は一緒に行動してもらうよ」
風葉が手に持つ端末を操作すると、光斬とネセントの持つ端末に1つの通知がそれぞれ届く。急に来たためびっくりしながらも端末を見ると、風葉から警備のルートが送られていた。
「これが警備のルートね。これに沿って行ってくれたらいいから」
「これ?」
福岡県の主要道路の上を、赤く線が引かれていた。それが警備のルートであろう。光斬は端末を風葉に見せて確認する。
「そう。それ」
「あざっす」
すると、光斬はネセントの肩に腕をかけて、颯爽と外に向かって歩き始めた。ネセントは急に肩組みを要求された上に、身長差が15cm程もあるため肩を組み替えせなかった。
(光斬……、身長差わかってる……?)
「組み返さなくていいんだよ。これは俺が信頼してるやつにしかやらねぇやつだから」
視界の端で淀んだ黒い瞳が細くなり、顔に沢山の皺が生まれると共に、口角が自然と上がる。何か楽しそうな声で雑談を始めた彼は、ネセントにとって視界の端で収めておかなければならないものだった。視界の正面で捉えてしまえば、それ以外の全てが見えなくなってしまうから。
(あの時の約束、もし光斬が忘れてても私は絶対に忘れないから)
一方の光斬は、彼女が密かに思っていることを全く感じず、今から始まる警備がどんなものになるのか少し楽しみにしていた。
(強化装備で外に出るのか……。それに覚えた魔法も実践で使ってみたいしな……)
光斬は1つの感情を抱くと、周囲からの影響を受けるまで中々それが抜けることはない。時間経過で抜けることは基本的にない。
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