Part,5 Wait there!!



 ーー深夜、彼は酷く魘されていた。彼の記憶を掘り起こした私が悪い。だからせめて、安心を与えてあげないとーー



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 翌日の午前5時、光斬が目を覚ますと、そこには彼の体を強く優しく抱きしめるネセントの姿があった。光斬は微かに見える横顔を見ると、起きているのかわからないが彼女は微笑む。そんな姿を見て、光斬は安心して彼女の体を強く抱きしめた。

 午前7時30分。目覚まし時計が7時30分を指すと物凄い音で知らせる。光斬とネセントの鼓膜に物凄い音が届くと、2人はジワジワと現実に引き戻される。先に目を覚ましたのは光斬だった。



 (やっぱ慣れねぇな……)



 とは言いつつも、光斬はネセントと鼻がくっついている状態でも特に緊張していなかった。目覚まし時計を止めて再び抱きしめ返すと、ネセントも目を覚ました。



 「ひゃぁ!?」



 変なところから声が出た。光斬はネセントが突然声を出したため、体がビクッとして驚いたような顔をした。



 「なんだよ」


 「い、いや……。距離感……」



 どうやら、ネセントは無自覚で光斬のことを抱きしめていたらしい。理性で抱きしめたいという本能を抑えていたのだろうが、夢に入ると体は本能の赴くまま。それに気づいたネセントは、頬を赤らめていた。

 光斬は朝食を作ろうとベッドから降りようとする。だが、頬を赤らめても尚抱きしめるのをやめないネセント。しまいには足を自分の腰にかけ、離す気0%の状態になってしまった。



 (どうしたものか……)



 すると、ネセントは言葉を詰まらせながらも光斬に向かって小さな声で言った。



 「……もうちょっとだけ、このままでもいい?」


 (なんだこの生き物。殺しに来てんのかよ)


 「わ、わかった。30分だけな?」



 その後30分、ネセントは彼の体を強く抱きしめながら、匂いを嗅いでいた。その間、光斬も同じことをしていた。共に変態だった。

 午前8時、ネセントは満足したのか抱きしめるのをやめる。光斬も彼女が抱きしめるのをやめたため、抱きしめるのをやめてキッチンへ向かう。ネセントはそんな彼を見て、テレビをつけてニュースを見る。



 「昨夜、福岡県福岡市東区でフェミーバーによる襲撃がありました。しかし、神の代行者軍福岡支部の隊員が向かうと、そこには何もいなく、戦った形跡だけが残っていました。現在、フェミーバーに襲われた推定15歳の男子高校生の捜索が、福岡県警によって続けられています」



 テレビには、光斬とネセントが出会った場所が映し出されていた。どうやらテレビで言っていた「推定15歳の男子高校生」は彼のことらしい。そこで、ネセントは1つ疑問に思った。どこの高校に行っているのか。



 「ねぇ、光斬」


 「どうした?」


 「光斬ってさ、どこの高校に行くの?」


 「俺か? 吉塚高校だ」



 福岡県立吉塚高等学校。福岡市内にある全日制普通科の公立高校であり、グローバル教育に力を入れているため留学制度もある。といっても、日本以外のほとんどの国がフェミーバーに支配された状況では留学は不可能であるため、現状は国際科目の単位数が多いだけの学校である。

 ネセントは光斬からその情報を聞くと、驚いたようなリアクションを取りながら彼に話す。



 「私もそこ行くよ」



 ネセントは持ってきた服の中から、吉塚高校の制服を出して彼に見せる。光斬は彼女の手にある制服を見て驚く。



 「ええぇ!? ……いつ受けたんだよ」


 「普通に1次入試だけど……」


 「いたかなぁ……?」



 光斬は思い出しながら朝食を作る。ネセントはテレビを再び見て、気になった情報を光斬に伝える。そんなことを続けて10分、新たなニュースが入った。



 「明日、全国で神の代行者の入隊試験があります。昨年は407名が合格し、神の代行者は続々と力を増しています。受付は今日の午後6時限りとのことなので、参加を検討している人は近くの神の代行者支部に向かって手続きを終えてください。全国のニュースは以上です」


 「光斬って神の代行者入隊試験受けるの?」


 「あぁー、受ける」


 「じゃあ、私も受けようかな」



 軽いノリで入隊試験を受けると決めたネセント。それは、「光斬が受かったら一緒に行動することができないから」という考えからだった。

 午前9時、朝食を食べ終わって少しが経った頃、光斬は外出すると言い出した。



 「俺、買うものあるから外出るわ」


 「あ、それじゃ私も行こうかな」


 「わかった。待っとくから支度してくれ」



 待つこと3分。ネセントは昨日着ていた服を着ていた。光斬はそれを確認すると、近くにあるショッピングモールへ向かった。

 ショッピングモールに入ると、光斬はネセントの服をジロジロと見る。彼女の周りをゆっくりと1周すると、頷きながら言う。



 「まずは服だな」



 光斬はネセントの手を引き、服屋へ入った。その服屋は時期に関係なく冬物から夏物まで、男物から女物まで、ダウンから下着まで様々なものが売られていた。だが、いいお値段がする上にオシャレであった。



 「欲しいものがあったら買え。俺が選んだら多分……、とんでもないことになるからな」


 「無頓着なんだ」


 「この服見たらわかるだろ」



 光斬は黒の薄地長袖シャツに黒のズボン、そして黒の薄いコートを着ていた。いわゆる、ワントーンコーデというものだ。ネセントはその姿の彼を見て、納得したような表情で服選びに向かった。光斬は一応それについて行く形で向かった。

 午前10時45分。60品に渡る買い物を済ませた。その荷物のほとんど全てを持っている光斬は、数分歩いただけで疲れていた。



 「大丈夫? 持つって言ったのに……」


 「いや、このくらい持ってやるよ」


 「……無理しないでね?」



 その後は美容専門店、日用品店、飲食店、スーパーとたくさんの場所を回った。回り終わった時、時計は午後4時を指していた。ネセントは何故、こんなに買い物をさせてくれるのか意味がわからなかった。何回か彼に聞いたが、彼は答えようとしてくれない。



 (何か複雑な事情でもあるのかな……)



 ショッピングモールから家に帰ろうと、入口に向かう。だが、5時間以上も荷物を持っていた光斬は流石に疲れたのか、ベンチに座ってひと休憩した。



 「ああぁ……、疲れた……」



 完全にリラックスしている彼に、少し聞きにくかったがネセントは質問した。



 「ねぇ、何でそんなにk」



 ネセントが話している最中に、ショッピングモールの入口の外から爆発音が聞こえた。ネセントの声は爆発音で彼の耳に届くことはなく、完全に意識は爆発音に向いた。



 「なんだ?」


 「見てくる。光斬はここにいて」


 「お、おう……」



 ネセントは外に出ると、そこには大量のフェミーバーが人を襲おうとしていた。爆発音の正体は車が爆発した音であり、大破した車の上にはフェミーバーがいた。



 (第7ラッパ大隊所属の……? 知らない部隊……)



 ネセントは魔力を手に込め、ルナティック・マーダーを殺した刀を出して戦闘態勢に入った。その途端、人を襲おうとしていたフェミーバーを瞬殺した。



 「ぼく、大丈夫?」



 襲われていた男児に向かって、ネセントはしゃがんで丁寧に対応した。すると、男児は笑顔で言う。



 「大丈夫!!」



 すると、ネセントは後ろから襲ってくるフェミーバーの心臓を突き刺しながら頭を撫で、立ち上がると逃げるように誘導した。



 「さて、お前らは何?」


 「お前……!! 何故フラガラッハを!?」


 「さぁ? お前らに言うことは何もない」



 その言葉と共に、フェミーバーの部隊を10秒もかからずに殲滅した。残るは車の上に乗っていたフェミーバーのみ。



 「お前……!! いったいなんなんだ!!」


 「言って何か私に得でもある? ないから言わないよ」


 「ふざけやがって……!!」



 フェミーバーは正面から向かってくる。だが、ネセントはその動きを完全に読んでいた。脇構えの形を取り、フェミーバーが目の前まで迫った瞬間、一気に刀を上に振り、フェミーバーの体を一刀両断した。



 (光斬、動いてないよね……?)



 ネセントは刀を鞘に入れると、鞘ごと刀が消えた。それを確認すると、ネセントは走って光斬の元へ向かった。

 ネセントが外に向かった時、光斬はある男に話しかけられた。その男のシルエットは、光斬にとって見覚えのあるものだったが、気のせいだろうと気にはしなかった。



 「お前、六波羅 光斬か?」


 「え? あ、はい。そうですけど……」



 何故名前を知っているのか。光斬は1つの疑問を抱きながらも質問に答えた。すると、男は彼の目線に目を合わせるためにしゃがみ、目を見て話し始めた。



 「お前の連れ、フェミーバーだろ?」



 彼にしか聞こえない声で聞く男。全てを知っているような態度で聞くその男には嘘は通じないと直感で感じた光斬は、正直にそれに答えた。



 「そうだが……」


 「そうか。これで確信を持てた」



 男は立ち上がり、座っている光斬の肩を軽く数回叩きながら言う。



 「俺は奴とは真反対の存在だ」



 そう言い捨てた男は人混みの中へと消えていく。探そうとしようにも、ネセントが「ここにいろ」と言ったため動くことはできない。そのため、光斬は男が言った言葉の意味を考えていた。



 (奴……。多分ネセントのことを言ってるんだろう……。んで真反対……? ネセントと真反対の存在ってことか……? どこが違うんだ……?)



 光斬はただただ考えていた。周囲は入口からできるだけ遠くに逃げる人でわんさかしていた。警備員もフェミーバーには太刀打ちすることはできないと理解しているのか、職務放棄して逃げていく。そんな中でも、微動だにせず考えていた。

 ネセントが帰ってくると、そこにはベンチに座ってひたすらに考えている光斬がいた。



 「……終わったよー」



 軽く声をかけてみるが、光斬は考えることをやめない。ネセントは肩を叩いたり揺さぶったりして、彼の気をこっちに向けようとする。だが、光斬は考えるのに集中してるのか反応がない。



 (仕方ないか……)



 ネセントは彼の顔を手で支え、正面に自分の顔が来るようにした。彼の視界に無理矢理自分の顔を入れることで、自分がここにいることをアピールした。光斬はそれでようやく帰ってきていたことに気づき、驚いた。



 「ビックリした……」


 「ごめんごめん。それで、何か考えてたみたいだったけど……」


 「ああぁ、知らねぇ男に『俺は奴とは真反対の存在だ』って言われた。知ったこっちゃねぇんだけど、俺の名前を言われたから何かしら意図はあるんだろうなって思って……」


 「なるほど……」



 ネセントは時計を見る。時計は4時3分を指す。



 「福岡支部行こうよ。私まだ手続き終わってない……」


 「そういやそうだったな。行くか」



 1度、光斬とネセントは家に帰って荷物を一通り置き、それから向かうことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 光斬とネセントが家に帰っている最中、福岡支部の神の代行者3名がフェミーバー出没の現場に到着した。だが、そこにはフェミーバーがいない。その状況に困惑しながらも、神の代行者達は周囲の捜索を開始した。


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