Part,4 False beauty
30分後、精神の安定した光斬は料理をしていた。ネセントはそんな光斬の横に立っており、何を作っているのか気になっていた。
「危ねぇぞ」
光斬は中火で温めていたフライパンに油を敷くと、ボウルの中にある溶いていた卵をフライパンへ入れて炒め始める。計りを使っている様子はなく、全て目分量である。その後、ある程度卵が炒めたら炊いてあった白米をフライパンに入れて再び炒め始める。
「……何作ってるの?」
ネセントは光斬の手際の良さに驚きながらも、何を作っているのかがわからないため、何を作っているのかわからないのに驚いているのいうわけのわからない状況になっていた。
光斬も、今作っている料理が何なのかネセントには分からないだろうと思って作っていた。元々、今日の晩飯はこれにしようと決めていたのだが、余分に食材を買っていたため、彼女に提供しても問題ないと判断した。だから今、2人分を作っていた。
「これか? チャーハンっていう料理だ」
ある程度パラパラに炒めれたため、ネギや肉を投入して更に炒めていく。ネセントの鼻に入っていく如何にも美味そうな匂い。彼女にとって、それは「形容のしようがない犯罪級の匂い」とのこと。
しょうゆを全体にチョロっとかけ、塩や胡椒を適量かけると、炒めるというよりかは混ぜるという意味合いが強い感じで炒めていた。
「もうそろそろできるから皿用意してくれ」
光斬はネセントにそう頼む。ネセントはチャーハンが入るのに1番適していそうな皿を2枚、食器棚から取り出すと、彼はそこに半分ずつチャーハンを盛り付けた。スプーンを彼女に渡すと、光斬はテーブルの上に置いて食べだした。それを見たネセントは、光斬に続くように食べた。
「どうだ? 美味いか?」
光斬は彼女にそう聞く。ネセントは一口食べると、口の中を空にすると生き生きとした顔で感想を伝えた。
「美味しいよ」
感想を伝えると、彼女は再び食べ進める。その美味しそうに食べる姿を見ると、光斬は彼女が「フェミーバーの姫」であることを完全に忘れて、ただの「1人の女の子」として見ていた。光斬はそんな姿を見て嬉しくなり、食べる速度が速くなっていた。
食べ終わって皿洗いをしていると、ネセントはベランダに繋がる大きな窓を開けてベランダに出て、月を見ていた。そこには綺麗に輝く1つの丸い月。見ていると夢中になるほど。だが、そこにいるのは光斬が恨んでも恨みきれない程、憎悪を向ける対象であるフェミーバー。
「月が好きか?」
光斬は彼女に聞く。すると、彼女は少し間を置いて話し始める。
「好きではないけど、美しいとは感じるよ。月にいた頃は、1つのクレーター内で家族と鬼ごっことかしてたし」
「そうなのか……」
家族という言葉に、光斬は過去のことを少し思い出す。洗っている手が止まり、ベランダで月を眺める彼女を見る。
「けどさ、月って太陽の光を受けて、それを反射して地球に微かな光を注いでるんだよね」
優しい声で語りかけるような喋り方。皿や箸などを洗いながらも、彼女の言葉を聞く光斬。何が言いたいのか、少し気になっていた。
「私ね、地球に太陽の光を届けるだけなのに、「何故こんなに存在感が変わるんだろう」って考えたことがあるの。大きさ? 距離? いや、違った。私は、光の虚実の違いだと思った」
光の虚実。パッと聞いただけじゃ意味がわからない。「月は太陽の光を受け、太陽光を反射して地球に微かな光を注いでいる」という彼女の言葉、それが意味しているのかと俺は思った。
「月は大きなものを隠し、見せれる小さなものを見せる。フェミーバーは人間以上にその狡猾さがある。クレーターとか、一番いい例じゃない?」
「まあ、何となくわかる」
「見えるんだけど、見づらい。月の模様ってさ、よく見ないと中々見えないでしょ?」
見えるところにあるが、しっかりと見ないと見えないところに情報を置く性格の悪さ。それはフェミーバーは色濃く現れている。と、彼女は言っているのだと光斬は理解し、続きを聞く。
「けど太陽ってさ、見せれるものは全て見せてるの。眩しい程に」
皿洗いが終わり、光斬もベランダに向かう。
「真実が与える光と、嘘が与える光は強さが違うってことか……?」
「そういうこと。見て」
ネセントは月を指し、光斬に見るように言った。
「光斬にとってあれは憎いものだと思う。確かに、あれは憎い。私にとってあれは思い出の場所でもあり、憎しみの場所でもある」
ネセントは光斬の肩を叩き、彼の顔を自分に向けさせた。
「光斬はあれに、どんな感情を抱いているの?」
曖昧な質問だったが、光斬にはそれが具体的な質問に聞こえた。今までの話を聞き、それを自分に照らし合わせながら聞いていた彼にとって、この質問は答えづらかった。
「……うまくは説明できねぇけど、憎しみを抱いているのは本当だ。けど、俺は月に抱いてるわけじゃねぇ。向けてるのは俺の親を殺したフェミーバー達だけだ。無関係のやつを殺したりはしたくない」
「……流石、昔と変わんないなぁ……」
ネセントは顔を逸らしながら小声でボソッと口に出す。光斬はそんな彼女を見て気になったのか、何を言ったのか聞いた。
「なんか言ったか?」
「い、いや。何も言ってないよ」
「そうか」
光斬はネセントが動揺しているのに気づかなかった。ネセントはそんな平然としている光斬を見て、少し安心していた。
風呂から上がった光斬と入れ違うようにネセントは風呂に入った。今は彼女が風呂に入っている途中である。
「どの服着ればいい?」
風呂場からネセントの声が聞こえた。光斬は風呂場の近くに行き、聞こえる声量で伝える。
「俺の服が入ってる引き出しがある。そこに諸々入ってるからそいつら着てくれ」
「わかった」
光斬はそう言うと、ベッドに座ってテレビを見ていた。テレビの右下に記されていた時計には、22:34とあった。
風呂から上がったネセントの姿を見ると、光斬は頭を抱えた。髪はちゃんと乾いており、衣類の裏表前後も合っている。だが、服が薄いせいでボディラインが強調されていたのだ。
「ん? どしたの?」
「いや、なんでもない」
光斬はテレビを消すと同時に電気を消す。そして、ネセントの肩を押してベッドに無理矢理連れていくと、ベッドに座らせた。
「お前はそこで寝ろ」
「……じゃあさ、光斬はどこで寝るの?」
素朴な疑問だった。この家にはベッドがひとつしかなく、ベッドに代用できるものはひとつもない。そんな中、光斬がどうやって寝るのか。彼女にとって、彼はこの家の主人。自分がいるから彼が寝ることに支障をきたすなら、彼に体を張らすわけにはいかない。
「……後で探す」
そこで彼女は考えた。光斬の発言は無視で。立ち上がり、光斬の手を握ってベッドに連れていく。
「何のつもりだ……?」
手を握っていたのを、次は肩に触れた。肩を下に押してベッドに座らせると、そのまま横に倒して仰向けにする。そして、彼女は光斬の上に乗った。
「本当に添い寝をすればいいんだ」
「……重い」
「そんな事言わない」
光斬は体を横に倒し、ネセントもベッドの上に乗るようにした。互いの顔が目の前にあり、その距離僅か20cm。15歳の光斬には刺激が強かった。
「とりあえず、しばらくはこれになりそうだね」
「……なんで嬉しそうなんだよ」
「さぁ?」
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ーー月は美しい。けど、それは偽りの美しさなのだと、彼は既に教えてくれていたーー
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