第15話

 フリーキックに備えて、筑前の新見がボールをレフリーが示した場所に置いた。その横にベテランストライカーである若林が近寄ってくる。二人の内、どちらが打ってくるかを分かりにくくするための陽動作戦だ。


 アルケミストの選手がフリーキックに対する壁を作り始めているが、桜井は壁の位置が気に入らない。


 壁が真ん中に寄りすぎているため、このままではキッカーの位置が把握しにくい。フリーキックでは蹴った瞬間が分からないとキーパーの動き出すタイミングが遅れてしまう。


「もっと左!壁を左に寄せてくれ!」


 大声で壁の選手たちに声を発するが、相手チームサポーターの声援に打ち消されて伝わらない。


 このまま打たれたらヤバい。


「カン!カン!カン!カン!」


 桜井は消防車の警鐘のごとく、ゴールポストを蹴って音を立てた。


 その音に壁の中にいた選手が気づいたので、左に壁が寄るようにジェスチャーで伝えると理解したらしく、壁は全体的に左へと少し移動した。


 これでキッカーの様子は分かるようになった。


 自らファウルを受けてフリーキックを得た新見が打つか。それとも、経験値で上回る若林さんが打つか。どちらが打つかは分からないが、ボールにインパクトするまでつられて動かないようにしたい。


 そう、強く心に誓って桜井はフリーキックに対して構えた。

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