第11話

 西東京アルケミストは府中に勝利し、リーグ序盤のスタートダッシュが成功した。


 続く相手は筑前。地元密着の熱狂的なサポーターがいるクラブだ。


 今節も野沢がU21アジアカップで不在のため、桜井が第二ゴールキーパーとしてベンチ入りする。さすがに3試合連続となると慣れてきたのか、試合に向けた準備もスムーズになってきた。


 筑前のホームスタジアムである「筑前よくきたばいスタジアム」は試合前日にも関わらず、多くのサポーターが集まっていた。


 サポーターのお目当ては試合前日に行われる選手のトークイベントだ。今日はチームのエースストライカーであり、大黒柱であるベテランの若林さんと、いま売出中の若手ストライカーの新見が来るということで、いつも以上に集まっているらしい。


 アルケミストの選手が前日の公式練習のためにスタジアムに入るのと時を同じくしてトークイベントが開始され、ものすごい盛り上がりを見せていた。


 試合当日、スタジアムに太鼓や笛、筑前サポーターの肉声による歌が鳴り響く中でアルケミストの選手たちは到着した。


 スタジアム内のロッカールームに入ると、各選手たちがウォーミングアップのために着替えたり、これから履くスパイクを取り出して用意を始めた。


 桜井も最近慣れてきた試合前の準備を行っていると、いつもは横のロッカーを使用する川田さんが居ない。どうしたのかと思い、伊達や武田に聞いたが知ってるものはいない。


 しばらく待っていると、トイレに入っているとの情報が入った。そして、練習直前にようやく現れた川田さんの表情は通常よりはかなり青ざめた顔色をしていて「後は頼んだぞ」とひとことを残して、再びトイレへと去っていった。

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