#014-3

あの日、コンラッドに背中を押され、一度は心を決めたと思った。

それなのに、少しでも精神が不安定になるとこうして筆をとってみても中々送れるものにならないのがジレンマだった。

気持ちを知られるのが怖いのか、いや違う、その上で拒否されるのが一番怖い。けれどこうして何もできないままぐずぐずしている時間もない。

この恋の本当の終わりをみるためには、拒否されるしかなかった。


ピアーズはさっき書いた手紙を丸めてゴミ箱へ捨て、新しい便箋を敷いた。


”クレイグ・バラクロフ


ドイツでの生活には慣れましたか。

    

オレは先週、担任のマーカス先生の結婚式とそのパーティに行きました。たぶんお前にも便りは届いてると思う。

高校の屋上にのぼって、初めてお前と会った時のことを思い出したよ。

覚えてるかな、覚えてくれていたら嬉しいんだけど。


前、留守電残したんだけど、聞いてくれましたか。

あれから連絡がないのは、オレとの縁を切りたいか、それとも何かの事情なのかはわからないけど……。

オレはお前とまだ親友だと思ってる。

だから、こうしていま手紙を書いてる。


写真、綺麗でした。

本当はこの目で見たいけど、それよりお前がくれる写真の方がきっと、綺麗なんだろうな。

また、よかったら送ってください。


ピアーズ”



当たり障りのないことしか書けない自分を恨む。

けれど、きちんと連絡が欲しいことは伝えた、まだ繋がっていたいと恨み言を言わずに書けた。それだけでも上出来だ。

最初に書いた手紙を丸め、ピアーズはペンをテーブルに置いた。

これを送って、答えを待とう。

クレイグの答えを聞くまでもうジタバタしないと決めた。そしてこの恋に、決着をつける。

ピアーズは封を閉じ、切手を貼って席を立った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る