#014 09.03.31/09.04.15 - Piers side -
”ピアーズへ
この手紙が届く頃には、旅行から帰ってきているでしょうか。
俺がこの先、第二のライフステージを過ごすことになるドイツは、この季節もうそれなりに暖かいよ。
これから俺は、親父の学んだドイツの大学に通うことになる。
留学という名目だが、おそらくそのまま、その大学病院で勤務することになるから、次そっちで腰を落ち着けられるのは当分先だ。
もしかしたら10年以上かかるかもしれない。
だから俺の人生において出会えてよかったと思える友人の1人であるピアーズへ、こうして柄にもなく手紙を書いてみている。
筆を執った理由はそれともう1つ。
お前に謝りたいことがあるんだ。
俺は出会ってからこれまでの約5年間、お前にたくさんの嘘をついてきた。
たとえばこの間の電話だってそうだ。火曜日、俺はドイツ行きの便に乗った。本当はお前に連絡できなかったあの1週間、父親の助手でフランスにいたなんて嘘だ。
ドイツで暮らすための新居探しと、入学のための論文を書いていた。
ずっとお前に本当のことを言おうか迷ってたんだ。でも、俺がいなくても寂しくないって言葉を聞けたから、俺は安心してドイツに発てます。
お前が好きそうな写真をいくつか入れておくよ。これはドイツの新居探しの合間に撮ったやつ。
もし気に入ってくれたなら、部屋にでも飾ってやってくれ。
また、感想を聞かせてくれると嬉しいです。
お前の親友、クレイグより”
ピアーズの胸がどくんどくんと激しく脈打った。そして無意識に、電話端末へ手を伸ばしダイヤルする。
2,3度ベルが鳴った後、それは留守番電話へと切り替わった。
「……もしもし、オレ、……ピアーズだけど。あんな手紙だけ寄越すなんてお前何考えてんの……? ……いや、……ごめん。……電話ください。……待ってる」
歯切れの悪くなった自分の声が耳に残る。すぐに電話を切った。
そしてもう一度手紙を見る。
便箋と一緒に封筒の底に落ちていたのは、4枚の美しい写真だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます