#012-2


「それで、本当に後悔しないんだな?」

「……ああ。別に一生開きっぱなしってわけでもないし」

「……ホールのサイズは?」

「気にしない。穴が開けばいい」


クレイグはこっそりポケットからピアッサーを取り出した。ピアーズは大人しくクレイグに言われるまま耳朶を保冷剤で冷やしながら夏休み明けのテストに向けてテキストをめくっているから気が付かない。


ピアーズが買ってきたピアッサーのゲージサイズは12Gだった。何も知らずに適当に買ってきたのだろう。14Gよりサイズが大きくなるほど(すなわち数字が小さくなるほど)元に戻りにくくなるという。だから12Gなんて、おそらく元に戻ることのない大きさだった。


好都合なことにピアーズはピアスのことをよく知らないと、カフェでの会話中に気がついてから、クレイグはすぐに近くの薬局でサイズの小さいピアッサーを購入した。それをそのままポッケに入れておいたのだ。


ファーストピアスのサイズとして適切なのは16Gと言われているからそれを買ってきたが、それでも心が、ピアーズの柔らかな耳たぶに穴など開けたくないと訴える。


「あっそ。……耳朶、感覚なくなった?」

    

「うん、全然触ってる感じしない」


少し無邪気に笑いながら、自分の指で耳朶を弾く。


「……じゃあ、開けるぞ」

「……うん」


お前の勇気を讃える、と適当に誤魔化して買ってやったゴールドのピアスは18G。もともとピアッサーに付いていたファーストピアスは16Gだったから穴が塞がりにくくなるのを心配してやめた。


もちろん最初は穴を開けると同時に16Gのファーストピアスが刺さるけれど、そのあとは自然とホールを小さくしてやれたらいい。何も知らないピアーズを騙して細いピアスをあてがうのは簡単だった。騙した後ろめたさは、いつかこの胸に宿る後悔を消してくれる薬になると信じて飲み込む。


ピアーズの耳朶をそっとつまむ。そしてジェルの消毒液をコットンで塗った。冷えて真っ赤になった耳朶が痛そうだ。


「いくぞ。3つ数えろ」

「うん。……one,」


数え始めた瞬間に指に力を入れ穴を開けた。手慣れた手つきで少し溢れてきた血を拭う。


「……医者もそれやる。そういうとこ嫌い。昔頭縫った時も、歯を食いしばって5秒数えろって言いながら、3秒のときにガチャンってさ」

「それなら医者はみんなそうやるって覚えておけ。俺も親にそうされてきたんでな」


    

「うん、全然触ってる感じしない」


少し無邪気に笑いながら、自分の指で耳朶を弾く。


「……じゃあ、開けるぞ」

「……うん」


お前の勇気を讃える、と適当に誤魔化して買ってやったゴールドのピアスは18G。もともとピアッサーに付いていたファーストピアスは16Gだったから穴が塞がりにくくなるのを心配してやめた。


もちろん最初は穴を開けると同時に16Gのファーストピアスが刺さるけれど、そのあとは自然とホールを小さくしてやれたらいい。何も知らないピアーズを騙して細いピアスをあてがうのは簡単だった。騙した後ろめたさは、いつかこの胸に宿る後悔を消してくれる薬になると信じて飲み込む。


ピアーズの耳朶をそっとつまむ。そしてジェルの消毒液をコットンで塗った。冷えて真っ赤になった耳朶が痛そうだ。


「いくぞ。3つ数えろ」

「うん。……one,」


数え始めた瞬間に指に力を入れ穴を開けた。手慣れた手つきで少し溢れてきた血を拭う。


「……医者もそれやる。そういうとこ嫌い。昔頭縫った時も、歯を食いしばって5秒数えろって言いながら、3秒のときにガチャンってさ」

「それなら医者はみんなそうやるって覚えておけ。俺も親にそうされてきたんでな」


    

ピアーズは膨れ面を晒しながらもそっと自分の姿を鏡で見た。



「……いっきに不良になった気分」

「あくまでもお利口さんなんだな、お前」

「お前に言われたくないね」


ピアーズが少しだけ、後悔の表情を見せたのをクレイグは見逃さなかった。


「あと少ししたら、飯でも食いに行くか?」

「いいね、ハンバーガー食いたい。がっつり」

「昼飯とかいってカプチーノしか飲まねえからだ」

「あの時は気分じゃなかったんだよ」


ピアーズが立ち上がり、うんと背伸びをする。後悔はしたけれど、自分のやったことを反省するいい機会になって、心は晴れやかなのだろう。一方こちらの心に靄がかかっているとは知らずに、ピアーズはニコニコと笑いながら早く行こうと無言でせがむ。


「痩せたんだから、もっと肉食え」


そういってポンと額を小突いてピアーズを抜いた。そのまま振り返らずに自室を出て、階段を降りる。さすがに今日は夜になっても、まだまだ暑そうだ。汗をあまりかかないクレイグでも少し顔が上気する。五分丈のシャツを捲って、ピアーズが隣を駆け下りていくのを待った。―――



そのピアスの跡が、いまでも残っている。無事に穴はふさがったようだけれど、ピアーズの体を傷つけたことはクレイグの精神的には大きな負担だった。


好きな人の体を大切に思う気持ちは、ごく自然発生的な感情だと思う。


最初はピアーズに恋をするとは思っていなかった。

それなりに高校一年生から女性経験は豊富だったし、女の友達もたくさんいた。

エスコートしてやれば喜ぶし、それで自分の価値も決まるものだと思っていた。


高校2年になって、あの高校に入ったとき、一度自分についた汚れは落ちたのだと思っていた。 自分がひどく汚れているように見えたのは、ピアーズがまっさらだったからだ。

自分よりもあらゆることに免疫がなくて、すべての感受性のすべてを使って反応を示す。この男が、ある日突然とても尊く感じた。


テレビゲームに夢中になるピアーズを、クレイグは目を細めて見つめた。


(……きっと俺は、一生こいつに恋して生きていくんだろう)

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