#012 09.03.17 - Craig side -
「なあ、クレイグ! 回復アイテム持ってる?」
「はいよ」
ゲーム画面の中で、クレイグの使用キャラがピアーズの使用キャラに回復アイテムを使う。
「助かった。サンキュ。敵強いな」
「向こうの衛生兵がまた厄介だな。味方をよく見てる」
「うん」
「あとお前もう少し物陰に隠れたほうがいい、正面から行き過ぎるからダメージ食らいすぎるんだよ」
「やっぱ正々堂々といかないとね」
ピアーズは画面に夢中でクレイグには視線もくれない。
クレイグはふと、そのピアーズの耳たぶをみた。そこに一点、塞がってはいるがピアスの穴の跡が残っている。
それを見るたびにクレイグは、ひどい後悔に襲われた。心の一番奥をちくりと針で刺されるような痛みに似ていて、どれだけ時が経っても和らぐことはない。そう、この穴を開けたのはクレイグ自身だった。
―――高校3年生の夏。図書館で勉強をしていたクレイグの肩をトントンと叩きながら声をかけてきたのは、ピアーズだった。
「クレイグ」
「お、久しぶりじゃん。最近連絡寄越さないで何してんだ」
ふて腐れた表情で、外に出ようと顎をしゃくって見せる。
夏休みに入って一週間ほどしてから連絡が取れなくなったので楽しくやっているのだろうと思っていたのに、どうやらそうでもないらしい。
クレイグは何も答えないピアーズについて外へ出た。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
「……いきなりなんだけどさ、今日お前んち行っていい?」
「……まあいいけど」
「そんで、これでピアス開けて」
そういって投げられたのはピアッサー。クレイグは放物線を描いて手中に収まったそれを見て、首をかしげた。
「……開けてどうする」
「理由なんか聞かなくても開けられるだろ」
「それならこれは没収だな。捨てておくよ」
クレイグはピアッサーを空に放り投げて弄んでいたが、そういうとすぐにポケットへ隠した。
「なあ頼むよクレイグ。お前くらいしか頼める奴いないんだ」
「コンラッドやユージンたちは?」
「……コンラッドには断られたよ。ユージンたちはいまハワイ行ってるし」
頼られたのが最後だった。クレイグにとってはなんとなく理解したくない事実だった。このとき覚えた感情には本人が一番驚いた。
「……何時?」
「……7時」
「わかった。これからどうすんだよ」
「……飯食いに行ってくる」
「あそ。俺駅前のコーヒー飲みに行くけど」
ピアーズがあそこのカプチーノが好きなのを知っていてわざとクレイグは言う。ついでに言うとピアーズはあそこのBランチも好きだ。
「……オレも行く」
ピアーズが唇を尖らせながら、カバンを取りに図書館内に戻るクレイグの後をついてくるのがおかしくて、クレイグはつい口元を手で覆ったのだった。
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