#009-2
ダーツのうまい二人の前でやるのは腰が引けるというのが本音だが、二人ともクロックの最中以外は真剣にダーツを教えてくれるから、そんな思いも薄れてきた頃だ。
ピアーズはダーツボードの前に立った。ダートを手に持つと、少しぴりっとした気持ちになる。
「ピアーズくん恋人は?」
「いません」
さっそくサイモンが茶化しにかかる。
「どんな子がタイプ?」
「うーん、優しい子」
「好きなバストのサイズは?」
「C」
ピアーズは適当にあしらいながらダートを投げた。クレイグとサイモンが投げられたダートを目で追ったのがわかった。
「おお」
「精神力やっぱ鍛えられたんじゃねえか?」
ダートはそのまま、1のところへ刺さった。
クレイグがダーツボードからダートを抜いてくれる。
「Cカップか。うーん、ちなみに俺はEは欲しいね」
サイモンが言う。正直胸のサイズなんてどうでもいい。
「んなの嘘に決まってんだろ」
「どうかな? 迷いなかったぜ」
クレイグまでそういって、ピアーズにダートを手渡すのだ。ピアーズは少しむくれたい気持ちになった。
「じゃあお前はどうなんだよ?」
「んー? さぁね。当ててみ?」
ソファに腰掛けたピアーズと入れ替わりに、楽しそうな笑みを浮かべたクレイグがダーツボードの前に立つ。今日は随分と酒を入れたらしい。
「クレイグ! 今、好きな子はいんのー?」
「いる!」
ダートを構える横顔は楽しそうでもあり、自信ありげでもある。
ピアーズはクレイグの回答に胸が締まる思いがした。けれどここから、サイモンが手を緩めるはずがない。
「お! どんな子ー?」
「素直じゃない子」
「おおー! その子のバストサイズはー?」
「さあ。でもデカくはないね」
そういって投げたダートは、見事に1のところに刺さった。その瞬間よし、と小さく喜んだクレイグの横顔に、胸が高鳴る。
「マジ? お前ならもっと上狙えるだろ、さすがにそれは妥協だぜ」
クレイグと交代するために立ち上がったサイモンが、クレイグの肩を叩く。
「お前にとってはバストサイズも指標の一つかもしれないけど、俺には胸のサイズでその人の価値が決まるとは思えないんでね。相手は俺にとっちゃ高嶺の花だ」
「そんな女が本当にいるならお目にかかりたいねえ」
サイモンのその言葉をスルーして、クレイグはピアーズの隣に座った。
「進んだ? 今どの辺読んでる?」
「おかげさまで全然。もうどこ読んでたかすら忘れたよ」
「そうか。なら今日は読むの諦めろ。明日になれば、腐るほど時間もある。今日は徹底的に遊べ」
「ああ、ありがたいお言葉だね。そうするよ」
今日は金曜日。このままクレイグの家に泊まって、明日一緒に勉強する予定だ。
「おーい! 煽りがないぞー」
「はいはい。サイモンくんは、彼女と週何回やってんのー?」
こちらを振り向いて要求するサイモンに、クレイグがわざと面倒くさそうに投げかける。
「あえてその質問? いきなりハードル高いぜ」
「じゃあ彼女のバストサイズはー?」
「教えるわけねえだろ!」
サイモンの投げたダートは惜しくも5のところに刺さった。
「くっそ! 変なこと聞くなよ」
「お前だって好きな奴のバストサイズ聞いてきただろ」
仲はよくとも、こんな機会でないと恋愛の類の話はしない。
面と向かって真面目に恋愛の話をするのは互いに照れくさかったり、気恥ずかしかったりするのだ。そもそも、わざわざ議題に恋愛のことを上げるほど、話題に事欠くこともない。
「お互い様ね」
「そ」
クレイグは頷くとそのまま席を立った。トイレにでも行ったのだろう。
「お前クレイグの好きな女見たことある?」
「いや」
「だよな。そんな女いたらとっくに手を出してる」
ピアーズはシェリルを思い浮かべた。彼女はどちらかというとグラマラスな体型だったはず。まだ自分の知らないクレイグがいるのかと思うと、うんざりとした気持ちになるのだった。
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