#010 09.03.16 - Piers side -



―――「お前今週も土日来るだろ?」

そう声をかけられたのは、ジムの隣あったランニングマシーン上を走っていた時だった。

いつもピアーズは耳にイヤホンをつけて走るから、トントンと肩を叩かれイヤホンを外した途端のことだ。


「ああ、別に他の予定もないし」

「金曜の夜、サイモンとダーツ行くけど、お前も行くよな」


当然のように聞いてくるクレイグが少し憎い。

けれど自分は土日の予定を当然のように受け取っているし、それに合わせて日頃のスケジュールを組んでいる。学科の友人との遊びや予定は、すべて平日の夕方を使っているのだ。


「え、聞いてない」

「でも?」


だから金曜日はダメだった。学科の友人と個展に行こうと言っていたのだ。だが友人が急な家庭の事情で行けなくなったと、ジムに来る前電話が来た。その話中、新しいコンペに出すためのデザイン案でも練ろうと考えていたのに。


「……行く」


こう答えてしまう自分も憎い。どう頑張ってもクレイグの誘いを断ることは、別の予定がない限り出来ないのだろう。


「じゃあそのまま、金曜日から俺んち泊まってけよ」

「え」

「たまにはいいだろ。大学入ってから泊まったことなかったろ? 先週部屋を変えたんだ。前の部屋の一つ隣のメゾネットタイプになった。先週シェリルが来るからって断ってたし、初めてだろ。前より広くなったから余裕で泊まれるし。いいだろ?」

「まぁ……うん」


お前がいいなら……なんて言葉を濁しながらも、ピアーズは内心気が気ではなかった。

高校の頃は、何度か家に泊まったこともあったし、両親と会ったこともある。

けれど、大学に入ってからクレイグが泊りに来いなんて行ったことは今まで一度もなかったのだ。これは何かあるのかもしれない、とピアーズは腹をくくらねばならなかった。


「じゃ、決まりな」


そういってクレイグがマシンのスピードを上げた。クレイグの荒い息遣いが聞こえる。ピアーズがイヤホンをするのは、その息遣いを聞きたくないからだ。ピアーズは、もう一度イヤホンを耳にぎゅっと押し込んだのだった。―――



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