#009 09.03.16 - Piers side -
クレイグの細い指がダートをつまむ。そして鋭い眼差しで的を射た。
「ナイス」
「サンキュ」
「相変わらず何やらせても器用だねえ」
サイモンはクレイグが放ったダートの刺さる位置を見て、ヒュウと口笛を吹いた。
最近はクレイグがやたらと遊びに誘ってくれる。
「ピアーズ? 酒まだ飲むか?」
サイモンが振り返って窓際で本をめくるピアーズに問うた。最近はクレイグに勧められて、建築以外の本も読むようになった。窓際に座っているピアーズは、曇ったガラスの向こうに夜景色に染まった街を見下ろせる。
「いや、いい。しばらくコレで満足だ」
ピアーズは傍らのグラスを持ち上げた。最近は少しずつ酒をたしなむようになってきた。
あの教授との一件があった後、思い出した入学パーティのことを回顧してみて、いつまでもクレイグの優しさに頼ってはいけないと気が付いたのだ。
そこにクレイグとグラスを傾けたいというちょっとした欲望のせいもあるということには、気付かない振りをしている。
実際クレイグもサイモンも、こうしてダーツをしながら結構な量のお酒を飲む。クレイグは一向にテンションも表情も変わらないけれど、少し楽しそうになるのがいい。サイモンは一定量を超えると泣き出したり、最近出来た彼女への愛を叫ぶようになったりするけれどそれがまた見ていて面白い。
クレイグと過ごすうちに、いまではピアーズも隔てなく話せる友達になった。クレイグとサイモンの共通の趣味であるダーツに、今宵も付き合わされている。
「ピアーズくんは本当に勉強熱心だねえ。感心だ」
サイモンがピアーズの隣のソファにどかりと腰を下ろす。
別に勉強しているわけではなかったが、ピアーズはその余裕のある仕草を見て皮肉を思いついた。
「そこの二人とは頭の作りが違うんでね。人の倍勉強しないと」
「おいおい、ひねくれんなよ」
「なあサイモン、ピアーズ。いつものアレやろうぜ、な?」
お酒が入って楽しくなったのか、クレイグが盛んにゲームに誘ってくる。アレとはラウンド・ザ・クロックというダーツのゲーム形式のことで、クレイグの最近のお気に入りコンテンツだ。
1から順にダーツを入れていき、どのプレイヤーよりもはやく20までカウントが進んだものを勝者とする。このゲーム中にプレイヤーを動揺させる発言で狙いをずらすのが三人流の楽しみ方である。
「やだね。あれやるといっきに神経持っていかれるもん」
「精神力を鍛えてこそだろクリエイターは。ほら」
いたずらっ子のように笑うクレイグに、少し気が進んだのはピアーズの心の中でだけの内緒だ。
ほの暗い明かりに照らされて笑うクレイグの表情は魅惑的で、漂う色気に気圧されそうになる。ピアーズは童顔である自分を惨めに思った。
「んなの聞いたことねーよ」
「よっしゃ、さあ立って立って! んじゃあピアーズからな」
そういってサイモンにぽんと背中を叩かれる。
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