#006-3
「悪いな、寒い中待たせて」
「いや……」
突然かけられたその声で、ふと我に返った。
クレイグが眉を挙げて、困ったように笑う。守衛室からは先ほどの話し相手であろう守衛の男がこちらを見てた。
「帰ろう」
カバンを肩にかけて、クレイグが少し先を歩き出す。ピアーズはなんとなく、そのあとをついていくようにして歩き出した。
「何が食いたい? 食べれるか?」
「ああ。……クリームシチューがいい」
「わかった。スーパー寄って行こう」
「うん」
会話はそれきり途絶えた。沈黙が場を支配した後、クレイグが重い口を開く。
「なあ、ピアーズ」
「……ん」
「俺は、たぶんお前が何をしても味方でいてやれるから。だから、……俺にだけは遠慮するな」
クレイグが急に、振り返りもせずに言った。その声音からは何も読み取れない。ピアーズはぽつんと、闇に置いて行かれたような気になった。
「……なんで、急にそんなこと言ってくれるの」
「……知っておいて欲しかった。でもそういうことじゃないよな、ごめん、あんまり気にしないで」
「なんで、……お前がそんな泣きそうな顔してんだよ……」
こちらを振り返ったクレイグの顔をみたら、自然とそんな言葉が出た。
これまでピアーズの目に器用に映っていた男が、不器用に見えた最初の瞬間だった。
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