#002-2
「クレイグ! ガウンはー?」
「もう向こうに置いてあるよはず」
高校の頃よくやったように、3人と2人に分かれてシャワーを浴びに行くことになった。
クレイグの家にはみんな何度も高校時代に遊びに来ているので、勝手がよくわかっている。
「俺はそんなに、汗かいてないからいいんだけど」
「そう言うなよ。久しぶりに裸の付き合いもいいだろ?」
そう言って、いってクレイグがコンラッドをなだめる。
結局いつもの分かれ方で、ピアーズはユージンとエルバートとともにシャワールームへ向かった。
「なあ、オレたちこないだ会ったのいつだっけ?」
「夏じゃねえか? ほら、海行ったやつだろ?」
「そうだ。なんだよ、半年前じゃねえか」
「半年か、なら俺に恋人が出来てねえのも頷ける」
エルバートが大げさに手を広げてうなだれた。コメディ映画の役者のようなその仕草に、またユージンが笑い出す。
こういう仕草が、こんなにれほど様になる人間も珍しい。
「コイビト、……ねえ。最後に出来たのは高校だろ?」
エルバートがピアーズに問いかけてくる。
「ああ」
「マジ? 俺は大学入ってすぐ出来たぜ。すぐ別れたけどな」
ユージンが楽しそうに話し始めた。結局過去の女も遊びも、男同士で楽しく過ごすためのタネになるようだ。そんな仲間たちが馬鹿らしくて愛おしい。
「ピアーズ、お前は? お前まさか、まだチェリーボーイか?」
「バカ言えよ。どんなわけねえないだろ」
「それとも何、充実しまくっちゃってんの? 女取っ替え引っ替え? アレ? お前高校のときの彼女とはもう別れたんだろ? また付き合ったんだっけ? 同じ大学だろ?」
ユージンが興味津々といった様子で聞いてくる。ピアーズは実際、クレイグに会う恋をする前の高校時代に一度、告白してきた女性と付き合い、そのあとすぐに不毛な恋に落ちたから、そんなに恋愛経験は豊富ではない。
バスルームでみんな各々服を脱ぐ。もう今更躊躇いはない。
帰って来てすぐにクレイグがバスルームに向かったと思ったら、暖房をつけておいてくれたらしい。バスルームは暖かく、服を脱いでも冷えることはなかった。
「もうとっくに別れてるし、大学でも会うことはないよ」
「じゃあそれからご無沙汰か。お前コンラッドに頼んでみろよ。女落とすレクチャーしてくれって! あいつのモテっぷりはハンパじゃねえからな! クレイグもモテるだろうけど、あいつは女に興味なさそうだし」
仲間から見てもそう思えるのか、と少し安心したような心持ちになって、ピアーズは自分の感情にはっとする。慌てて答えを探しながら、Tシャツを脱いだ。
「別にいま今はいいよ、学業に専念する」
「女遊びも経験しとかねえと、社会出てからつらいぜ? 今のうち遊んでおけって!」
「逆に、女性経験なんて社会に出てからいくらでも得られるじゃん。いましかこの勉強はできない」
「だよな! 俺もそう思って、恋人作らなかったんだ」
エルバートはピアーズに勢い良く、シェイクハンドを求めてきた。しかしその手をユージンがはたき落とす。
「嘘つけよエル! お前はガチでできねえだけな! お前は自分の能力を笑いに振りすぎなんだよ。もっと気取ってみろ、それこそクレイグやコンラッドみたいに」
ユージンの言に耳を傾けながら三人一緒にシャワールームに入る。放っておいてもこの二人はこうしてずっと喋っていられるのだろう。
「コンラッドはいま今、何人に手出してんの?」
「四人4人くらいじゃねえ? あいつの口からそれくらい名前出るぜ。確か、ベティ、ボニー、アンと………あと誰だっけな」
「ベアトリスが本命だろ?」
「ああ、そうだ、あのイイ女な」
ユージン、エルバート、コンラッドは同じ大学へ通っている。ユージンとエルバートは学科も同じであるため、いまもいつも一緒にいるらしい。コンラッドは一人だけ学科が違うものの、それでも三人で集まってランチをするという話はよく聞いている。
「それで本命はなんにも言わないのかよ」
「そう思うだろ? でも、そういうとこもわかって付き合ってるんだってよ」
「ホント、懐のデカイ女だぜ」
ユージンとエルバートは二人でコンラッドの恋愛事情を噂するのに忙しい。
ピアーズはとびきり熱い湯を浴びた。ここへ帰ってくる道のりで冷えてしまった身体を、芯から温めてくれる。
こうして仲間たちといても、黙るとクレイグのことを考えてしまう。コンラッドといま、何を話してどんな顔をしているのだろう。
自分と話しているより楽しそうだったら、と考えて止める。考えるだけ無駄だと頭を振ってみても、頭のチャンネルは切り替わってくれない。
「あいつはあの顔でジェントルメンだからな、そりゃ女が寄ってくるわけだよ」
「俺もあんな優男顔に生まれてたら人生変わってたか?」
「だから! お前は笑いと下ネタに能力振り過ぎなんだっつーの」
「でも、そんな俺がイイんだろ?」
「わかってるじゃねえか」
エルバートの言葉に、ユージンが大きくうなずいて二人は肩を組んだ。
兄弟よりも仲の良い二人の会話を聞くまでもなく聞きながら、ピアーズは自分のもの思いに耽っていた。
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