#002 09.01.31 -Piers side-

「おー! 会いたかったぜー!」

「おつかれさん」

「Hey! ピアーズ! 久しぶりだな!」


待ち合わせの体育館にやってきたのは、ピアーズとクレイグのクラスメイトであるエルバート、コンラッド、ユージンだ。

エルバートはいつも明るくムードメーカー。コンラッドは達観していていつもクレイグと一緒に傍観に回っていた。そしてユージンもピアーズやエルバートとはしゃいでいた賑やかな男だ。


「全員お集まりか?のようだな」


ボールの入ったカートを押しながら倉庫から出てきたクレイグが声をかける。


「クレイグ! お前、いきなり呼び出しやがってこのヤロ野郎!」

「でも、お前とエルは暇だったろ?」


クレイグは飛びついてきたユージンを抱きとめてからさらりと受け流す。


「暇だったよ、クソ! 彼女の一人1人も出来やしねえ」


エルバートはピアーズの背中に飛び乗って、クレイグに野次を飛ばす


「コンラッドは? 彼女との予定潰して悪かったな」

「いや、問題ないよ」


コンラッドは首を振って、いつもの柔らかな顔で笑う。

コンラッドはクレイグよりも幾分か低い182cmだがその柔和な顔立ちからそんなに身長があるようには見えない。

    

声もなめらかな低音で、ピアーズが描く"大人"そのものになった。高校時代から大人びているとは思っていたがけれど、こうして私服姿を見ると余計に思う。


「その辺り、理解あるから」

「ならいい。今日はバスケの後、朝まで飲み明かすつもりだから覚悟しておけよ」


クレイグはそう言いながら、コンラッドにボールを投げる。それが始まりのホイッスルになったようで、途端にバスケットボールのプレイ試合が始まった。

コンラッドは、いまも大学のバスケットサークルに所属しているようで、軽快なボールさばきを披露してくれる。素早くボールを背中に回して、背後にいたユージンに投げた。

それをユージンがキャッチして走りだす。2on3にならないように、エルバートが自然にコートから抜け、声援を投げる。

ユージンがそのままゴールを決めようとした瞬間、クレイグの手がそのボールをカットして攻守逆転した。クレイグは伸びやかな姿勢で走りだし、その青い瞳でピアーズに動きを促す。


「ピアーズ!」


その声とともに、ボールが飛んでくる。ピアーズはボールを取り返しに来たユージンをかわし、クレイグに声をかけてパスを回した。

ボールはその後、二度ピアーズの手に渡り、最後クレイグに渡ったらそのままゴールに吸い込まれていった。


「エル! 交代交代!」

「OK! 引っ掻き回してやれ!」


ユージンはエルバートと、ハイタッチしてコートから出た。コンラッドはクレイグに渡されたボールをドリブルしながら、エルバートが配置につくのを待つ。

冬なのに、少し動いただけでピアーズは汗ばんだ。コートを脱いでユージンに投げる。

クレイグは首を回しながら、コンラッドが動き出すのを待っている。対するコンラッドは、エルバートの位置とピアーズ、クレイグの位置からどう動くのがベストか、思案しているようだ。

そして……堰を切ったように走り出す。


「エル、右!」


コンラッドが叫ぶより先に、コンラッドの手から離れたボールはクレイグの手に吸いつけられた。

その瞬間、クレイグの口元が得意げに緩む。そのクレイグの表情が、ピアーズの胸に強烈に焼き付いた。

ピアーズがそんな瞬間に気を取られている間に、もうボールはゴールに落ちている。

クレイグがニコニコと嬉しそうにこちらへ歩いてきたので、ピアーズは手を差し出してハイタッチを求めた。

しかし、クレイグは小さく首を振りながら一瞬困ったような笑みを浮かべ、ピアーズにボールを投げて預けると、その足でコンラッドの隣へ向かってしまう。


「動き早すぎ速すぎ」

「お前がどう動きたいかなんて、目を見てりゃわかるよ」


クレイグがコンラッドにはっぱをかける。コンラッドは笑いながら首を振った。


「ピアーズ! お前は相変わらずのアシストプレイヤーだな!」

クレイグの行動を考えていたピアーズからボールを奪いながら、ユージンがからかう。エルバートも近寄ってきて、ユージンからボールを奪うとそのままシュートした。

ピアーズはそのボールを追いかけながらもどこか、コンラッドとクレイグの様子が気になってしまう。


「お前、なんかいま故障してる?」

「右足かな」

「マジかよ、悪かったな。あんま無理すんなよ?」


コンラッドが足を内側に向けて上げた。その肩をクレイグは掴んで支える。その素振りはとても自然だが、ピアーズは心の中に切なさを感じていた。


(やっぱり、あいつはオレに触らない。)


さっきもそうだ、ハイタッチを求めたのをわかっていて、クレイグはそれを避ける。



「ナイス! Hey! パスパス、こっちだ」


エルバートとユージンが、遊び足りない子どものようにはしゃぎながらコートを駆け回っている。

ピアーズはボールを思い切り、エルバートに向かって投げた。それをユージンがカットして、そのままゴールへ駈けていく。


「おいノーコン!」

「悪い!」


いつのまにかプレイはユージンvsピアーズ、エルバートの1on2になっている。ピアーズはユージンを追った。


「エル、そっちから回れ!」

「わかってる~!」


お調子者のエルバートは語尾を伸ばしてわざと不恰好に走って見せる。ピアーズもユージンもそれを見て思わず噴き出した。


「お前、守備範囲広すぎ!」

「レパートリーあるな、ほんと!」


エルバートはその2人の笑い声を声援と受け取り、ユージンが笑ったすきに奪ったボールを使っておどけてみせた。ユージンはすっかり座り込んで笑っている。


「もっとイイのちょうだい、もっともっと」


ピアーズが煽ってやるとエルバートはそれに応えるようにしてあらゆる走り方や飛び回り方をしてみせた。

エルバートはトリッキーな動きが得意だ。自身の高い身体能力を駆使してくる。


「もう一戦やろうぜ」


笑い転げている3三人に、クレイグが後ろから声をかける。

それにエルバートはすぐさま反応し、妙な動きでクレイグを挑発した。クレイグもわざとムキになった振りでエルバートの足元をうろつくボールを取り上げる。


「お前はとんだチートだな! このバスケットチートマシンめ!」

「ひどい悪口罵声だな」


そこからチームを変えて何戦かやるうちにみんな汗だくになって、一番近いクレイグの家に場所を変えることにした。

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