【不死 VS 不死】 Act.6
今日も狩りに出る。
今日の出陣肉はローズラット。喜んでもらえた。
うま味はあるけどあっさりしてて、食べ飽きないんだよね。
でも、何といっても美味しいのはティアマトだ。
まだ出してあげない。キングを倒したら椀飯振舞するよ。
今夜は中級が2匹出てきて、僕は幸運にも血晶を手に入れた。
「猫に血晶ってもったいなくね!?」
「失礼だな。自慢するけど7個持ってるよ。これで8個め」
「マジか!!」
「一番小さいのなら金貨20枚で譲ってあげる」
「1か月分の給料ぼったくるな」
「バルの方はダメだったか」
「コウモリになって散るところだった。残念」
完全体の状態じゃないと採れないからね。残念。
そんなこんなで日は過ぎて、7日目。
あろうことか一晩で61人やられた。
「さすがに圧をかけられてしまった」
町役場に呼び出されたレオが、困り顔で頭を搔いた。
狩った数は問われないけど、被害者が増えると、やっぱりね。
「栗でも食べて気分変えようか」
「栗?」
「こないだ買ったんだ、市場で」
中庭に出て、出した栗に爪の先で穴を空けて、ゆっくり焼く。
ゆっくり焼くと甘くなるっていうからね。
「お、美味いなこの栗」
「何か懐かしい味だなー」
「ばあちゃん家に栗の木あって、よく登ったなー」
「よく落ちた、だろ」
「火傷しそう、だけど止まらない。甘い」
「これはいい栗だ、こんな栗は初めてだな」
人間には大好評だけど、猫は栗を食べない。
『猫に対する差別だ! 俺たちにも何かくれ!』
すっかり食欲の権化に成り果てたな、君たちは。
ドロワーからマタタビを取り出して転がした。
「はい、どうぞ。1時間以内には素面に戻ってね」
彼らはマタタビを知らなかったのか、またたく間に酩酊。
「あっ、ルイ! お前マタタビなんか」
「明るいうちは出ないから大丈夫でしょ。猫にも楽しみが必要」
「ていうか、お前大丈夫なの?」
「ほんの少ひはくうへろえ」
「来てるぞ、わりと」
「へー、コールサルトにも効くのか」
「超稀少種だが猫だからな」
「猫がどうやってマタタビを獲るんだ?」
「はひひおっぱあっれおいれ、はめはあろるお」
「誰か通訳しろ」
「んー……先に酔っ払っておいて、覚めたら獲る……かな?」
「酔っ払い猫の通訳ができる天才アスラン爆誕だ」
久しぶりにいい気分になって地面をゴロゴロ転がった。
ここはヴァンパイアの縄張りだから何も来ないけど、本当は人里だって安全とは言い切れないんだよね。
マタタビなんてほんと久しぶり。
気持ちよかったー。
みんなもスッキリした顔してる。
『これが噂のマタタビか。恐ろしいやつだな』
『毎日欲しい。俺討伐頑張るから』
『たまにだからいいんだ、毎日使うと慣れちゃって効果薄くなるよ』
『じゃあ来週、7日目明けたら』
『そういうのはフラグって言って、死んじゃうお約束の流れだからダメ。マタタビ吸えなかったな……ってニヒルに呟いて死ぬの?』
『嫌だ。マタタビ吸ってから死にたい』
『たった今君は一生マタタビと無縁になった。残念』
『ルイー! マタタビー!』
『僕はマタタビじゃないよ』
人間も魔獣も含めて、とてもいいパーティだ。
レオの人柄だね。
猫もリーダーだったボンドがいなくなっても結束が乱れてない。
ふらっと立ち寄った町でこんなパーティに巡り会えるなんて驚きだよ。
のんきなひとり旅もいいけど、たまに戦闘魔獣になると気が引き締まる。
やっぱり僕は根っからの戦闘魔獣なんだなって思う。
そして今日も夕刻、出陣。
休みはない。ヴァンパイアの暗躍に休日はないから。
職種としては大変だよね、常駐してアンデッド討伐って。
休めないし危険だし。死亡率高いし。
「ん? ああトマスさんですか。そっちはどうです?」
「気配はないなあ」
同じ宿の冒険者さん。
冒険者は冒険するのが仕事だという信念を持ってる。
ヴァンパイア狩りは冒険というにはちょっと無謀だけど、本人は満足してるみたいだからいいか。
「そうですか、じゃあ私たちは東の方をあたってみます」
「俺たちは北に行ってみる」
って別れて間もなく、パーティの大声やバディたちの鳴き声が響いた。
「助太刀に行くぞ!」
とって返して声の方向に行ったら、コウモリの群れがパーティの上を包んでた。
真下に人がいるから、実体化してくれないと攻撃できない。
「僕が行く!」
簡単だ、飛びかかればいい。反撃しようとして実体化する。
僕は結界があるから飛び込んでも問題ない。
案の定、ヴァンパイアが3匹現れた。
アイスブレスで一瞬で凍らせる。
僕の仕事はここまで。助太刀だから。
あとは聖剣なり火なりで片づけてください。
うっ、寒っ……。
パーティさんたちがヴァンパイアをどついてる間に、僕はレオのところに行った。
「さ"ぶい"……抱っこ"じで……」
「お前の魔法はどれも威力が強すぎる」
「あででも"半分ぐら"い"だよ"……」
レオが抱っこしてくれて、ひと安心。
さっきの人がやって来た。
「今のは例の黒猫か!?」
「ええ、この子です」
「10秒足らずでコウモリを実体化させて凍らせる、戦い慣れした切れ味、その尋常ならざる強さ、やはりただ者ではないのだな」
「まあ、稀少な個体ということで」
「……コールサルトか?」
「……はい。ルイ・ヴァルターシュタインです」
「素晴らしいバディを迎えたな、ボンドも安心してフレイヤ様の御許に召されただろう」
どうかなあ……そうだといいけど、そうじゃない! とか言って向こうでシャーッってなってたら申し訳ないな。
その後僕らは東に向かったけど、2匹しか退治できなかった。
「トマスさんとうちで5匹。先週までの残存数18、61足して79。残り74匹か」
「毎日10匹狩らないとまた増えるぜ。他のパーティはどうだろう」
「戦果があるといいんだが、火の手が上がったふうはないしな」
ヴァンパイアの数はすぐわかる。被害者の数とイコールだし、町にいるパーティは情報を共有してる。
反感も何もない、生きるために、戦うために、絶対に必要な情報だから。
まあ、実際のところ、レオのパーティーが解雇されたら後釜を狙ってるところもあるんだけど。
認証ないから無理だと思うよ。ただのお金持ちの用心棒じゃなし。
自治体の財源は税金です。保証のない奴は雇わない。
あっちのパーティはちょっと焦り気味かな。長引くと持ち出しが増えるからね。
ヴァンパイアには血晶以外の討伐証明がないし、必ず取れるものじゃない。
特定の条件があるんだ。
それに、被害者が出すぎてゴーストタウンになってしまったら、得るものがないまま撤収だ。
いつ逃げ出せばいいのか探ってる住民はいるけど。
お金持ちはとっくに逃げた。
様子見をしてるのは、町を離れても当面生活できる人たち。
それができない人たちは、恐怖に駆られながら町に残るしかない。
何とかしないと。
みんなが安心して暮らせる町にして、未練を残しながら逃げて行った人たちが戻って来られるようにしないと。
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