【不死 VS 不死】 Act.5


『ルイ、あれ食わせてくれ! あの、最初に食ったやつ!』

『レオに言いなよ。僕は食べてないから知らない』

『や、それじゃなくて中庭で食ったの!』

「ああ、ローズラットね』

 ピキ、って空気が固まった。

『ローズ……ラッ……』

『猛毒じゃん!』

『一瞬で首刎ねちゃえば体は無毒だよ。美味しかったでしょ』

『美味かったけどさ!』

『悪食だなお前』

『そうだね、他には……キラーヘッジホッグ』

『猛毒じゃん!』

『毒があるのはトゲだけだよ。皮剥けば問題ないから』

『そうじゃなくて! そんなの普通に狩ってるお前が怖い!』

『伊達に1300年生きてないよ』

『もはや魔獣じゃないな』

『コールサルトはドラゴンと猫のハーフだって本当だったのか……』

『フレイヤ様のご寵愛と大いなるご加護と、天主様の祝福のおかげさ』

『フレイヤ様のご加護!?』

『天主様の祝福!?」

『みんなにだって天主様の祝福があるよ。気づいてないだけ』

『——ボンドには、なかったのか……?』

 カイリが色違いの目で僕を見て言った。

『あったよ、ちゃんと。でも天主様が定めたもうた運命は変えられない』

『戦闘魔獣として使命をまっとうした、という解釈でいいのか?』

『それでいいんだと思うよ。……さて、ヘッジホッグ焼こうか』

 中庭でヘッジホッグ焼いてたら、みんなが来た。

「何やってるんだお前たち」

「食後の軽い食事だよ」

「野鳥とかにしては大きいな、何の肉だ?」

「キラーヘッジホッグ」

「は? 超高級肉だぞ、半身で金貨5枚はくだらん」

「自分で獲ればタダです」

「魔獣辞めても肉屋になれそうだな」

「僕の最初のバディはグルメではなかったけど、討伐の前にいつも〝明日死ぬかもしれないから、できるだけ美味しいものを食べよう〟って言う人だったんだ。だから僕はいつも美味しい肉を持ってる。今回みたいにどこかのパーティに入ったら、出陣の前に美味しいもの食べさせてあげたい」

「人間にも美味いもの食わせてくれ」

「ポイズンクラブなんてどう? すごくスタミナつくよ」

「猛毒じゃん!」

「じっくり焼くと毒が分解されるんだ。味は絶品、1度食べればやみつきさ」

「ひでぇ悪食だなお前」

「人間は美味しいエキスが逃げないようにって最低限の加熱で食べるから中るんだ。茹でないであぶり焼きにするのがコツ。パリパリして殻ごと食べられるし」

「だが悪食に変わりはない」

「最初のバディがそうだったの。食べられる獲物は好き嫌いせず食べてた。ポイズンクラブも何か食べ方ないかなって考えて」

 中庭で朝食後の軽い食事会。

 猫たちはキラーヘッジホッグを貪り食い、人間たちはポイズンクラブを頬張った。

「確かに美味いっ! やばい、酒が欲しくなる」

「この味噌、美味すぎるぞ。なるほどこれはやみつきになるな」

「そこに毒があるんだけどね、熱でしっかり分解するとすごく濃厚なうま味になるんだ」

『俺、仕事行くの怠くなってきたー』

「食べた分は働いて。討伐に行かない奴には食べさせないよ」

 というわけで、ものすごく簡単に士気が上がった。

 誰だって猫だって美味しいものは大好きだ。

「何かこう、すげえみなぎってるわー! 今ならひとりで中級殺れそう」

「ヴァンパイアより美女のお相手がしたい」

「美女いるだろ、ヴァンパイアの中にもさ」

「キスで牙が唇に引っかかるのは御免だね」

 ご婦人方には聞かせられない会話。

「また7日目まで下っ端狩りだが、気を引き締めていかねえとな」

「ルイ、明日は何食わせてくれる?」

「うーん……コカトリスなんてどう? 羽根むしってくれれば」

「俺が鍋用意するからスープにしてくれ! 大好物なんだ」

「美味しいよね、僕も大好きだよ。じゃあ鍋と水をお願い」

「いっそ朝飯抜きにしてもらって宿賃安くするか?」

 僕に朝ご飯たかる気か。

「一泊銀貨2枚銅貨5枚でも長逗留だと懐にこたえるしなあ」

 レオまで!

 どうしよう、ドロワーを空にされそうだ。

 いいか、いざとなったら毎日ティアマト食べさせておけば。

 今夜は7匹狩った。

 バルのおかげで中級を倒せて、血晶が手に入った。ヴァンパイアの討伐証明。

 小指の先くらいの、透明で赤い石。

 ものすごく貴重なんだ。とても強い魔除けになる。

「さっさとギルドに売っちまおう。こんなの持ってちゃ商売あがったりだ」

 魔物が出てきてくれないと確かに困る。

 もっとも、町民はみんな日が暮れたら家に逃げ帰って外出しないから、そう簡単には増えない。

 全部狩ってしまえばつかの間の安息だ。

 冒険者たちは宿屋で情報を交換する。

 残りが何匹くらいか、おおよその目処が立つ。

「小指の関節大の血晶!? そりゃ金貨70枚はくだらねえぞ!」

 見せろ見せろってせがまれて、バルは苦笑交じりで見せてた。

 本当に滅多に出ない希少品。

 僕は7つ持ってます。

「羨ましいねえ、臨時ボーナス」

「何言ってんだ、いつも通り頭割りに決まってるだろ、パーティなんだから」

 バル、気前がいい。

 自分がみんなに全力で守られてるのを知ってるから。

 明け方宿に戻って、居酒屋でパーッとやって、みんなで気持ちよく寝た。

 明日も緊張バリバリのヴァンパイア狩りだ。

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