【不死 VS 不死】 Act.3
1週間くらいお世話になることにして、ローズラットの肉をもう1匹あげた。
シチューも美味しい。満足。
定位置に座ったら、お客さんがきた。
まだ日没まで1時間くらいあるけど。
レオさんたちだった。
僕の前に片膝をついて。
「こんばんは、また会ったね」
……声が沈んでる。
あれ? 猫足りない。5匹?
大きな魔獣は外で待つけど、猫なんて一緒に……。
ボンド——!!
パーティの一番若いと思う剣士が、指先で僕の頭をなでた。
「あの後、ボンドがが名誉の戦死をしたんだ」
「献杯して今夜はこれから仇討ちよ」
『お悔やみをいうよ……ずいぶん強そうな猫だった』
白黒の猫に話しかけた。ミーって名前だったかな。
『ボンドは俺が知る限り最高に強いやつだった』
『今度魔法を見せるって約束してた。次がある保証なんかないって知ってるのに』
『俺たちだってそうさ。昨夜まで忘れてたぜ……甘いよなぁ、まだまだ』
『なあ、ルイさあ、もしかしてノーライフキング殺れるか?』
サン。青目で真っ白な猫。
『——わからない。相手が相手だから共倒れもあるかも……でももし共倒れでも倒せたら僕の勝ちみたいなものだよね』
『コールサルト、うちのパーティに入らないか?』
確かカイリ。茶色で短毛種の猫が言った。
左右の目の色が違う。青目と金目のオッドアイ。
普通、オッドアイって白い猫にしか出ないんだよね。
かなりの稀少種。きっと魔力が高い。
『パーティ……仲間になるってこと?』
『いくらレオさんが強いとはいえ、ボンドを失ったら半分丸腰だ』
本当にすごい子だったんだな、ボンド。
他の猫たちも言いだした。
『お前が入ってくれたら、これ以上心強い仲間はいねえ』
『なあ、頼む。俺たちはみんなを守りてえし、ボンドの仇も討ちてえ。ノーライフキング倒す以外の敵討ちはねえんだ。ボンドも安心してフレイヤ様の御許に行けねえ』
フレイヤ様、どうかボンドの魂を御許にお導きください。
『パーティリーダーに訊かないと』
『魔獣はボンドがリーダーだったからな……』
『普通にレオさんに訊けよ、脚叩いて』
『レオさん断ったりしねえから大丈夫』
僕はノーライフキングを倒したい。
今まで他人事みたいに捉えてたけど、わずかだったけれど縁があった子がヴァンパイアにやられてしまった。
根絶やしにするにはノーライフキングを倒すしかない。
僕ひとりより、仲間がいた方がいい、それは確か。
レオさんの人となりはわかってる。
冒険者ギルドも保証した、信頼できる人だ。
認証なんてなかなかもらえないんだから。
席に着いてたレオさんの脚を前足で叩いた。
レオさんは僕を見て、両手で持って抱っこしてくれた。
「どうしたのかな?」
「……話してもいい?」
案の定場が固まったけど、レオさんはすぐに普通になった。
「コールサルトがしゃべるって噂は昔からあったが、本当だったのか」
大丈夫だ、よかった。
「お悔やみを言うよ。僕はフレイヤ様を知ってる、とてもお優しくて慈悲深い方だよ。ボンドは彼女の御許で安らいでるから心配しないで」
「——ありがとう……」
「それで、相談なんだけど」
「何かな?」
「レオさん、僕をバディにして。ボンドの仇を討つんだ。そしてこの町を守ろう」
呆然と僕を見るレオさん。
「条件はたったふたつ、僕の名前はルイ、ピアスはこのまま。それだけ」
テーブルを囲んでた仲間たちが、ジョッキや皿をあわてて脇によけた。
「レオさん!」
「そうだ、ボンドを悼むのとこれからの戦いは別だ」
「ボンドの仇、討ってやろうじゃん」
「ルイはやりたがってるんだぜ!」
「やろう、町を守ってボンドの仇を討とう」
冒険者や戦闘魔術師で長旅をする人たちは、たいてい持ち歩いてるけど。
契約の針。
普通はないよねー、居酒屋のテーブルでバディの契約。
お姉さんやお店の人が祝福してくれたよ。
「黒猫をバディにできたのか! 羨ましい!」
「あんたは立派な冒険者だ! 黒猫がバディになったならキングも倒せる!」
んー……まぁ、知らない人にデリカシー云々言わないよ。
レオは最愛の相棒を昨日失ったばかりだなんて、きっと考えてないな。
でもやっぱりレオは立派だ。とても落ち着いてて、ありがとうって、微笑を浮かべてみんなに頷いてみせてた。
尊敬するよレオ。
僕は君のバディになれて誇りに思う。
『よし、俺たちも仕切り直すぞ。凹んでる場合じゃねえ、しっぽを立てろ!』
『ボンドの仇、必ず取るぜ!』
『ヴァンパイアにされたら、ルイ、俺を討て。お前は先に進め!』
バディたちが足下で言ってる。
パーティのみんなが代わりばんこで僕を抱っこした。
「マーロだ、よろしく」
「バルバロッサ、バルだ。あてにしてるぞ」
「僕はアスラン。下っ端だけど一緒にやれるのは嬉しいよ」
「カイ。共にキングを倒そう」
「俺はデニー。お前と組めるのは孫子の代まで自慢できるぜ」
「先に子ども作れよ」
「その前に女がいなくちゃ話にならん」
冒険者も戦闘魔術師も、いい人は軽口ばっかりだ。みんな明るい。
いつ死ぬかわからないから。
それをちゃんと知ってるから、後悔する生き方はしない。
みんなはボンドの話をしながら、ジョッキで1杯お酒を飲んだ。
武勇談がどんどん出てくる。すごい戦闘魔獣だったんだな。
それでも、やられちゃったんだ。
ヴァンパイア化したボンドは、レオが泣きながら斬った。
誰にも引け目を負わせないために。
残酷だ、骨さえ残らないヴァンパイア……。
そして僕らは夜の町に出た。
さっきまで明るく話してたけど、居酒屋を一歩出たら空気が変わった。
スイッチが入った戦闘集団。
「この町からヴァンパイアを駆逐するぞ」
「キングは絶対にいるぜ、俺の勘がビンビンきてる」
「そりゃそうさ、出てきてから2か月経ってるのに、やつらは全然減らない。親玉がいなきゃとっくに駆逐できてるはずなんだ」
「案じるな、俺たちにはラッキーキャットが加わった」
「安心して後を託せるな」
「託すな。僕は君らの始末をするために仲間になったんじゃない」
「万一の話だって」
「キングを倒したら祝宴でティアマトの肉をたっぷり振る舞ってあげるよ」
「ティ、ア、マト……!?」
「ティアマト!?」
「伝説の化け物……って食えるのかそれ!!」
「300年前に狩ったんだ。あいつら図体でかい上につがいで来るからさ、もう子猫が食べきれる量じゃなくて〜。これがまた美味しくてね、プリップリでコクがあって、じっくり煮込むと絶品なんだ〜。雌がすっごく美味しいんだよね〜」
「俺それ絶対食うわ」
「ちっ、生き残るしかねえか」
「食べ物に釣られちゃダメですよ、ここは」
「いや、釣られるって。ティアマトだぞ?」
いやー、今夜は大漁だったよ、18匹も始末できた。
みんな鬱憤晴らしたいから暴れまくって、僕の出番なんかなかったね。
「だが油断できない、7日目になるぞ」
空が白んできて、僕を左腕に抱いたレオが言った。
「7日目って?」
「ああ、7日周期でやつらは増える」
「ふぅん……それってつまりキングは7日周期で生体エネルギーが切れてくるってことだよね。それで下っ端のお尻を叩いて目一杯働かせるんだ」
「本体が出てくるって噂もある」
「千載一遇のチャンスだ」
「ああ、そう考えてくまなく町を歩くんだが、遭遇していない」
「夜出歩く人なんていないのに、どうやって……が鍵だね」
「私は、やつは霧にでもなって隙間を抜けられるんじゃないかと考えているんだ」
「あり得るね。家族根こそぎやられた家が多いってこと?」
「うん、一家全員消えるケースは多い。もちろん町を捨てて逃げて行く人たちもいるが、そういう人は貴重品を置いて行かないからね」
「あとは、誰かに化けて訪問するっていう手もあるね。ドア越しのやりとりなんて声音だけ似てればいいんだから」
「ともあれ明日は要注意だ。君に心配は不要だと思うが、気をつけて」
「君もだ。僕は早々に野良猫に逆戻りなんて御免だからね。管理局に登録もしてないのに未亡猫なんて冗談じゃない」
あっはっは、ってレオは屈託なく笑う。
少し歩いて、レオは僕を地面に下ろして片膝をついた。
他のみんなも。猫たちもきちんと座ってる。
焦げ臭さが少し残ってる。
ここなんだ、ボンドが命を落とした場所は。
しばらくの間、みんなで黙祷した。
みんなでフレイヤ様に祈りを捧げた。
勇敢だった猫のために。
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