【不死 VS 不死】 Act.2
頭おかしい奴と別れて半日の間で、2人の魔術師に襲われた。
天主様、この強制契約というスキルを世界から滅ぼしてください。
一方的に契約解除される魔獣が可哀想です。
……ん?
そんな奴のバディなんかやめた方が幸せか。
じゃああってもいい——いや、狙われて避けられない子もいるから、やっぱりよくないと思います。
にしても、パーティ多いな。何かイベント?
まさか討伐? 町の中で?
いったい何がいるの、この町?
さっきの奴がもし魔物なら納得できるけど。
魔物なら、ね。
だけど実際のところ、町のあちこちに嫌な魔物の気配があるのは事実。
大嫌いな魔物だ——ヴァンパイア。
元人間。魔物にされちゃった被害者。本人は何も悪くない。
でも人を襲ってしまうから、討伐するしかない。
だとしても不思議。
ヴァンパイアを狩って得することなんてある?
あいつらはほとんどの場合、塵になって討伐証明が残らない。
限定地域のヴァンパイアを根絶やしにするとかいった条件つき依頼じゃないと、儲けなんて出ない。
運よく〝血晶〟っていう石が手に入れば超レアな魔除けになるから儲けが出るけど、必要条件があるからなあ。
条件持ってる人はめったにいない。
ああ、気づいちゃったら無視はできないよね……狩るか。
魔物だけど元人間で被害者なんだから、きっと天主様は魂をお救いくださる。
……そう信じないと可哀想で狩れない。
パーティたくさん入ってるから、もし彼らがヴァンパイア狙いでものすごい火魔法使い軍団だったら、僕に出番はなさそうだけどね。
町の中心方向に歩いて、夕方、いい匂いがしてたお店の前に座って、足下に獲物を置いた。
どうしても食べたい、ローズラットの香草焼き!
しばらくしたら、お姉さんが看板を出しに来た。
「あら? まあ、黒猫!」
商売繁盛の御利益がありますよ。
「どうしたの? 何か獲物を持ってるのね。食べたいの?」
頷いたらお姉さんはニッコリ笑って、首を刎ねられた魔物を見た。
「ちょ……ローズラットじゃないの! あなたが獲ったの!?」
頷いた。しゃべったら負け。
「おいで、黒猫ちゃん。どう料理したらいいかしら、シチュー——」
「香草焼きが食べたい」
……悪い癖が出てしまった。
かなりの間、空気が固まってしまった。
「お……お話、できるのね……」
「僕はルイ。よろしくね。法律を守る善良な魔獣だから大丈夫」
幸い中に入れてもらえた。
黒猫なので。話が広まるだけでお客さんが増える。
他にもお店の人はいるけど、お姉さんとだけはこっそり話すことにした。
休憩の時間とか。
「ね、この町、ヴァンパイアがいるの?」
「どうしてわかるの?!」
「元々戦闘魔獣だから」
「2か月くらい前から出るようになったのよ……逃げ出す人もいるわ」
「元人間だから、討伐は気が進まない。でも被害が広がるから」
「もう300人以上被害が出て、町長さんが半月前ガーディアンを雇ったわ。それでずいぶん被害が減るんだけど……根絶やしにしきれなくてまた増える。堂々巡りよ」
ガーディアンはギルドから認証を受けた数少ないパーティ。
実力、人格、素行、いくつもの条件をクリアしないと認められない。
普通の討伐だけじゃなく、報酬を固定制にして自治体の警備依頼を受けたりもする。
ヴァルターシュタイン家のみんなは持ってなかったけど。
家名それ自体がガーディアンの代名詞だったから。
「夜お店開けててお客さん来る?」
「パーティの人たちが休憩に来るわよ。日が昇れば飲みに来てくれるし」
ヴァンパイア討伐パーティは昼夜逆転。
そうか、ガーディアンがいるんだ。
そして謎のパーティの群れ。
——なるほどね。わかったよ。
このタウンは〝ノーライフキング〟がいるかもしれないと思われてるんだ。
大勢のパーティにガーディアンまでいるのに、殲滅どころか押されてる。
いるのかもしれない、ヴァンパイアの王、ノーライフキングが。
そう……いるかも、ね。
猫は魔性の気配に敏感。まして黒猫は魔力が高い。
厄介だからさっさと始末したいよね。
スルーして逃げるっていう選択肢もあるけど……もし本当にノーライフキングがいたら、ここは確実に死の町になる。
増やしもせずトントンでやってるなんて、とても優秀なガーディアンだよ。
ノーライフキングを倒すか追い払わない限り、ヴァンパイアは増え続ける。
とはいってもねえ、ノーライフキングなんて簡単に倒せる相手じゃない。
というか、倒せない。
命がない奴をどうやって倒すの?
最凶最悪のアンデッドだ。
ヴァンパイアは人間の血を吸う。ノーライフキングはそいつらから人間の生体エネルギーを抜き取る。
腹ぺこになったヴァンパイアは、また人間を襲って血を吸って仲間を増やしていく。
たっぷりため込んだエネルギーで、ノーライフキングは太陽に当たっても死なない。
日の出の光だけが唯一の弱点なのに、ブロックされちゃってるんだもんなあ。
日の出とタイミングを合わせてエネルギーをゼロにできれば——無理です。
エネルギー切れて夜明けが近かったら逃げるに決まってる。
お姉さんの休憩が終わって、僕もお店に出た。
調理してもらった分は働かないと。
久しぶりに食べられて嬉しかったよ。まあまあ美味しかった。
お店の奥の真ん中に椅子が置かれてて、僕はその上に乗る。
招き猫なので、一番よく見えるように。
お客さんたちがどよめいた。
そうか、パーティの人たちだ。
黒猫、欲しいよねえ。
でも君たちはみんなバディがいるんだから全員却下。
座って耳の後ろを搔いてたら、近い席にいた人が言った。
「この猫、目が青いぞ」
「あれ……ヴァルターシュタインブルーのピアスじゃないか?」
「えっ?」
「ほら、左耳、耳の付け根あたりのとこにピアスしてるだろ」
「コ。コール——コールサルト・ルイ・ヴァルターシュタインだ!」
お店の中、大騒ぎ。
いっせいに僕を取り囲んでベタベタ触りまくる、なでまくる。
こらっ、誰だ、今ヒゲを引っ張ったの! 抜こうとしただろ!
みんな僕をバディに欲しがるけど、ダメ。みんなバディいるでしょ。
なでるだけなでまわしたら、未練タラタラ振り返りながら席に戻って、まだ盛り上がってる。
熱気冷めやらぬ中、ひとつのパーティが近づいて来た。
6人組、30代と20代。
冒険者4人、魔術師ふたり。
少数精鋭のいいバランス。
銀の鎧やお守り、装備は聖職者が祝福した聖剣や聖槍。
君たちがガーディアンだね。
先頭にいた30才半ばくらいの人は、柔和な瞳がマリスに似てた。
彼は僕の椅子の前に片膝をついて、視線を近づけた。
そして、僕の右の前脚を優しく握って、握手した。
「初めまして、コールサルト・ルイ・ヴァルターシュタインさん。私はこのパーティ、スターリングシルバーのリーダー、レオ・スターリング。覚えておいて頂けたら嬉しい」
猫に膝を折って視線を合わせるなんて、近来稀に見る礼儀正しさ。
他の5人もしゃがんだり腰を折ったりして視線を合わせてくれて、挨拶してくれた。
バディはみんな猫。魔性に敏感。
体は小さいけど俊敏で魔力が高い、使い勝手がいい魔獣。
みんな挨拶してくれた。
中でも僕の3倍くらいありそうな短毛種でグレーの猫、緑の瞳。名前はボンド。
レオのバディとかで、すごい風格だった。
これは強いぞ。かなりいけるとみた。
『願わくばぜひコールサルトの魔法を拝見してみたいものだ』
『じゃあ人の迷惑にならない範囲で今度ね』
——僕は知っていたはずだった。
人間にも魔獣にも、必ず〝今度〟がある保証なんてないことを。
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