【現人神の国】 其の六
「恒久的な独立協定だと!?」
書き付けを読んで、ムタは動揺してる。
「た、確かに印は本物だ、筆跡も大目付筆頭コクボ殿のものに相違ない」
「だから早く外交使節団組んで」
「かっ、簡単に言うな、とにかくこれを外務省に……とにかく島に戻らねば」
すごくあわててるムタ。
ちょっと可愛い。
終戦協議が始まって、10才以上のウエサマ一族は離れ小島に島流しと決まった。
生活は保証されるけど、エダ側の見張りは厳しい。本国からは隔離。
泳いで渡れる距離じゃないから、本国とはお別れだ。
ウエサマ失脚でヤマトの体制も変わることに。
ところが大問題があった……長すぎる独裁政治のせいで、国民は政治的に思考停止してた。これじゃ民主だ共和だ以前の問題だ。まともな選挙や人選ができない!
立憲君主制だって無理だよ、ウエサマ独裁で憲法さえない。
とんでもない乳飲み子を抱えたって、エダ島暫定政府は頭を抱えた。
とにかく国内をまとめないと内乱になる。
今は軍や警察や公的なものの権限をヒットウガロウって人に持たせて、まともな運用を一から勉強させてるとこ。
最低限の政治体制を整えて、やっと本題。
エダ島への賠償金の金額も合意ができて、恒久的独立協定が結ばれた。
エダ島は正式に独立国になった。エダ共和国。
戦争は完全に終わった。
ヤマトはもうエダ島に戦争吹っかけたりしない。
この島には僕がいるから。
見届けなくちゃ、この島が本当に戦争に巻き込まれないかどうか。
守護神様のご加護を受けている僕が、島の守護神になってしまった。
今日も半分白髪になったムタの膝の上で昼寝。
大佐から少将に昇進したけど、戦争終わったからその後は出世もなく。
本人は平和が一番だって満足そう。
そう。平和はとてもステキだ。
「ルイ、近所の友達を連れて来い、煮干しをやるぞ」
やったね!
近くにいた仲間を何匹か連れて帰った。
庭でみんなで煮干しをもらって食べる。
エンガワに座ったムタが、ちょっと首を捻って煮干しをかじった。
「ん、食ったのは子どもの頃以来だが、これは酒の肴になるな」
「君も僕らの仲間だね」
「にゃんころりん、か」
猫招きして、ムタは楽しそうに笑う。
戦争が終わったらムタは笑顔。
庭の戸口が開いて誰か来た」
「ヤマサキ中佐か。久しぶりだな」
「はい、本日は閣下とルイに会いにまいりました」
「嘘をつけ、私は口実で目当てはルイだろうが」
ムタは高笑い。ヤマサキも笑顔。
みんな笑顔。
人間も猫も、みんな幸せ。
もっともっと、みんなの笑顔が増えますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます