【終焉】 Act.7


 懲役40年。仮釈放なし。

 脱獄して殺人未遂するような奴に温情なんかあるわけがない。

 本当に殺すつもりなんてなかったって、裁判で必死に訴えてたそうだけど、首はダメだよね。

 ちなみに僕は凶悪犯の逮捕に貢献したということで警察署で褒められて、ご褒美に1年分の缶詰をもらった。

 グレイはそれを3つのギルド、冒険者、技術者、回復術士に分けて、希望者に配布してもらった。

 やっぱり、寄附をしないと死ぬ病気なんだな。

 家宝や一部の資産を残した家をシティに寄贈して、すべての整理を終えて、グレイは別邸——ヴァルターシュタイン家のリビング、で寛いでる。

 キーパーさんが淹れてくれるお茶は美味しいでしょ。

「やっと終わった……これからどうしよう」

「なに寝言言ってるんだ、君には大事な責任があるんだ」

「責任?」

「ヴァルターシュタイン家の当主は常に冷静で勇敢であれ、人々の役に立て。800年続く家訓を忘れたなんて言わせないよ。ヴァルターシュタイン家の歴史は終わりだけど、最後の当主である君が生きている間はまだ終わりじゃない」

 ずっと忙しかった清算が終わって、気が抜けてるのはわかるけど。

 ここはしっかり締めないと。

「君がするべきことは、優雅な休暇が明けたら魔術学校にお願いして、体術の授業に参加させてもらうことだ。さぞ鈍ってるだろうね。そして魔法の練習。準備万端整えないと出かけてから後悔するよ」

「——僕の守護猫はまったく容赦ない」

「甘やかし=死です」

「その割にはずいぶん優しいけど」

「ラブリーでしょ?」

「まったく君には敵わないよ。明日、学校に相談してみる」

「それでこそ当主」

「それと、来週の土曜に王都に行かなくちゃいけないんだ」

「王都? 首都になんて何の用事?」

「ちょっとね。アポを取ってあるから、見物でもするつもりで早めに出立しよう」

 というわけで、借りた馬車で王都に向かう。

 以前は馬車と馭者がいたけど、今はもういない。馭者さんは退職、馬車は売却。

 それでもスミスさんに言われて、ヴァルターシュタイン家当主としての体面を保てるレベルに資産は残してある。

 こいつ、生活費は自分で討伐して稼げばいいからって、ほとんど処分や寄附しようとした。

 世間知らずのお坊ちゃまは恐ろしい。

 まあ、次男だしお父さん死んだし家畳むしって、教育受けられなかったから仕方がないけど、社交がわかってない。スミスさんがいなかったらアウトだ。

 質素倹約は美徳だけど、君は最後のヴァルターシュタイン家当主なんだぞ。人付き合いがなくなるわけじゃないし、いろんな出費がある。

 田舎から都会に出て来て腕一本で一旗揚げる、みたいな無謀なことは考えないで。

 Eランクスタートなんだから。そこをよく考えないと!

 戦闘魔術師一本でいっぱしにご飯食べるにはCランクが最低ラインだから!

 甘やかしちゃダメだ、世間の世知辛さを体感させないと。

 馬車で5日、王都。さらに1日かけて王都の中心へ。

 なんかすごいぞ?

 こんな光景を僕は知らない。

 広い道沿いにお店ビッシリ!

 広い道に人ギッシリ! 馬車たくさん!

 怖い、王都怖い! 僕地面に降りたら踏まれて死んじゃう!

 宿に入って、グレイも苦笑いして「自分がいかに田舎者か痛感するね」って。

 あれがもし全部魔物だったらと思うと、さすがに僕でさえ失神する。

 次の日、グレイは魔術師の服を着て、左腕にアームガードを着けた。

 うわあ、久しぶりだ! アームガード大好き!

 グレイはすごく普通に「すぐそこだから」って宿を出て目的地に歩き出したんだけどね……それは少々無謀なことだった。

 なんか戦闘魔術師とか冒険者とか、多い。

 気のせいか周囲が少し空いて、ささやく声がする。

 ありゃあの猫じゃないか?

 目が青い、変異種だ。

 左耳にピアスしてるぞ。

 間違いない、ヴァルターシュタインの守り猫だ。

 ——当主のグレイより僕の方が顔が割れてる……。

「あ、あの、もしやヴァルターシュタインさんでは……?」

「? はい、グレイ・ヴァルターシュタインと申します」

「え……差し支えがなければ、その……コールサルト・ルイ・ヴァルターシュタイン様に触らせて頂けませんか?」

「……コール?」

 何だそれ? 僕、王都ではそんな変な喚ばれ方してるの?

 っていうか、ノー!!

「ルイですか。かまいませんよ。そっと触ってください、結界を持っているので」

 グレイのバカっ!!

 またたく間に人が列を成し、僕は頭と背中の毛がなくなる恐怖に震えた。

 魔獣虐待で訴えてやるー!!

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