【終焉】 Act.2


 グレイはロランみたいなタイプだった。

 線が細めで秀才肌。天才……っぽい部分もあるけど。

 でも見た目に反して強い。実はテッドより優れてた。

 何かの拍子に感情が昂ぶる悪癖があったテッドに対して、グレイはいつも落ち着いていて、周囲や状況をしっかり見ていた。

 自分より優れてて、何より青髪碧眼のグレイを、テッドはよく思ってなかった。

 弟のくせに、って舌打ちしてるのを見ると、ものすごく嫌なものを思い出してウンザリしてたよ、僕は。

 判決に従って服役したテッド、魔力封印のおまけつき。もう魔法は使えない。

 対人で衝撃魔法使っちゃったからね。あれ殺傷力強いから。

 内部損傷させるから治療が困難なんだ。

 僕でなければ肘から先が切断だったよ。

 火魔法だったら火傷で済んで綺麗に治せたのに、何故あえて衝撃を使うのか。

 硬いうろこがある魔物相手じゃなし、素手に衝撃とかないぞ普通。

 頭に当たったらどうする気だったんだろう。

 戦闘魔術師が衝撃魔法で人を殺したら30年は確実だっただろうから、5年は軽い。

 喧嘩だからね。もちろん大ケガをさせたのはテッドだけど、向こうも殴る蹴るしてたわけだから、一方的な被害者とはいえないって、喧嘩両成敗も含んだ判決だったから。

 若くて未熟ってのもあったし。18だもん。

 服役囚には、裁判所から許可が出ると面会ができる。

 当然。特別に申請して特別に許可をもらって、グレイと弁護士は刑務所へ。

 両親が相次いで死んだことを伝えると、鉄格子にしがみついてわあわあ泣いた。

 俺のせいだって。

 次の話題。

 次期当主の称号を剥奪すると親族会議で決定しました、って弁護士のスミスさんから説明してもらったんだけど、あの家は長男の俺しか継げないって泣いて。

 ヴァルターシュタイン家は初代の遺言に従って歴史を閉じますって言われて、また泣いて、俺が立て直すから待ってくれって、なにバカなこと言ってるんだ。

 君のせいで潰れるんだよ、ヴァルターシュタイン家は。

 酒に酔って魔法で傷害事件起こして服役した人間なんか、当主になれるわけない。

 学校卒業できず、魔力も失って、服役して前科者。

 これを当主にしたら本当に家が潰れるよ。ボロクソに叩かれて。

 次期当主の俺がここを出るまで待ってくれって、いやもう君継承権ないって。

 スミスさんが家の資産を整理すること、シティの地権を放棄すること、敷地と建物と魔術に関するものはシティに寄附して、すべて清算しますって言ったら、態度一変。

 財産を全部捨てるのか!! って、すごい剣幕で。

 怒るか泣くかどっちかにして。

 誰がどんな権限でそんな暴挙をするんだ、って大声で怒鳴って。

 会議で選ばれた最後の当主が行います、と。

 それがグレイだと察して、テッド発狂。

 お前は次男のくせに俺から全部奪うのか——吐きそうだよ、その台詞。

 まさか300年も経ってなお、その言葉に遭遇するなんて。

 喚く怒鳴る、もう収拾つかない。

 我慢が限界に達したらしい看守たちに引きずられて、牢屋に連れて行かれた。

「大丈夫ですか、グレイさん? 顔色が……」

 ヴァルターシュタイン家が代々顧問をお願いしてるスミスさん。

 僕が知ってる6人目のスミスさん。

 自分が知ってるお兄さんとはまったく違う生き物に遭遇して、グレイも少し動揺してる。

「できるだけ早く清算した方がよさそうですね」

 そう言ったスミスさんに、グレイは不安げな表情で。

「兄と裁判になりますか……?」

「なりません。テッドさんに100パーセントの痂皮がありますから。自ら家を傾けておいて権利の主張など通りませんよ。一応、法治国家ですので」

「では何故?」

「また事件が起きる可能性があるからです」

 これもまたロランと似たところで、グレイはときどき鈍い。

「逆恨みで君が狙われるってことだよ」

 あ。

 うっかりしゃべってしまった。

 スミスさんが息を呑んで僕を凝視してる。

 しゃべっちゃったのはしょうがない。

 今さら黙るのもわざとらしいし。

 弁護士だから漏洩しないでしょ。

「……狙われる?」

「あの醜態見たらわかるでしょ。いい人のふりしてたけど化けの皮が剥がれたの」

「——」

「あれがテッドの本性。君を憎んでる。優秀で青髪碧眼の君を」

「そんな……」

「僕は彼が君に対してこっそり舌打ちしてるのを100回以上見てる。見てない分を含めたら何千回打ってるか見当つかないね」

 グレイはものすごく沈んだ。

 テッドに対して含むところなんて全然なかったから。

「嘘だと思いたい……」

「嘘で済むなら、いくらでも嘘つき猫になるけど」

「君は、いい子だね、ルイ」

 そのまままっすぐ、馬車に揺られて帰った。

 あの家の総資産を洗い出す——戦争だなこれは。

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