VTuberのどこが面白いのか?
たけや屋
【1話完結短編】VTuberのどこが面白いのか? VTuber詳しくない勢がこの半年間VTuber見て勉強してみた——ネット社会の変遷とその帰結
自分はこの半年ほど、あるお勉強をしておりました。
まあはい、タイトルにある【VTuber】なる存在についてです。
世間ではVTuber関連企業の売り上げが全盛期を迎え、ラノベやウェブ小説界隈でも配信者を扱った作品が山ほどあるというのに、コイツは何を今さら——と思われるかもしれませんが。
それまでYouTuberについてはそこそこ知っていたのですが、VTuberはほとんど見たことがなかったのです。
個人的に興味がないことでも、世間で流行っている物事には必ず理由がある。その理由は何なのか——。
何事も食わず嫌いは良くないと思い、ポツポツ手を出してみたのでした。
本当は本で読めればいいのですが、まだ歴史が浅いせいかVTuberについての書籍ってほとんど無いんですよね。あってもかなり古かったり、雑誌の1記事だったりで網羅するのが大変。
最新の情勢については実物を見てみるしかないのです。
なのでこの半年間については、本もあまり読まず、その分の時間をVTuber見るのに費やしていたワケなのです。
「はたして、VTuberのどこが面白いのか?」
とやや疑いの目を向けながら。
ホ■ライブやにじさ△じ所属のライバーを始めとして、そのほか個人系なども、事前知識の無いまま手広く見てみたわけであります
◆ ◆ ◆
さて。
人間という生き物は、『どんな形であれ』相手から反応をもらえるとアドレナリンがドバドバ出る生き物であります。たとえ相手から明確な拒絶が示されようとも、ただそれだけで(喜怒哀楽の個人的な感情は別として)幸せを感じてしまうものなのです。
なので対話は人類の根源的にして究極のコンテンツなのであります。
古の文通などから、雑誌の読者投稿欄での間接的なやりとり、ネット掲示板でのレスバトル、それがツイッターやYouTubeなど即応性のあるものに進化して、その究極系がVTuberなのでは——というのが個人的な考えです。
今までも『テレビの生放送で有名人が私のおたよりを読んでくれた』ってのはあったと思うのですが、しかしそれはせいぜい年数回——しかもごく少数の限られた人間しか味わえなかった甘味。
しかしYouTuberは、基本的に凄い数が居て、本人が映像越しにではあるけど直接相手をしてくれる。コメントを読んでくれる確率は上記テレビの生放送の比ではない。
数打ちゃいつかは自分のメッセが読んでもらえる、数ある中から自分のだけが読んでもらえたという優越感を味わえる。
さらにVTuberは、アニメキャラに近い見た目の演者が(ここではあえて演者という言葉を使います)、自分の望み通りのセリフを読んでくれる——という、まさにひと昔前の『アニメオタクが夢見た現実』そのもの。
厳密に言うならVTuberはアニメキャラではありませんが、しかし共通点は多いし見た目もほぼ同じ(画面内で動いている漫画調の2次元キャラという点で)。
各『キャラ』の『設定』も作り込まれています(獣人とか魔法少女とか海賊とか男の娘とか、年齢も1ケタから4ケタまで)。
そして凄い数が存在しているので、その中から自分の好みドストライクなVTuberに巡り会うのはそう難しいことではないでしょう。
人気VTuberともなれば送られるコメントも多く、長時間かけて考えたコメントも一瞬で流れてしまう。普通に読んでもらうのは相当な運が必要ですが、高確率で(しかも長文を)読んでもらう方法があります。
そう、スーパーチャットです。
YouTuberやVTuberたちには、このスーパーチャット通称スパチャ付きのコメントだけは、配信の最後にまとめて読むという風潮があるようです。
しかしあまりにもスパチャの数が多いと、100円や500円などのいわゆる低額スパチャはスルーされてしまう傾向にあるのではないでしょうか(この辺のさじ加減は演者によるようです)。
こんな中で、特に1万円を超える高額なスパチャは【赤スパ】と呼ばれます。ほぼ全てのVTuberは、低額スパチャをスルーしても赤スパだけは読んでくれる——という状況も散見されます。
つまり何が言いたいかと申しますと……。
自分好みのアニメキャラ(VTuber)に自分の考えたセリフを読んでもらいたいなら、赤スパ(1万円)投げればいい——という式が完成してしまっているのです。
こりゃまさに禁断の果実ですがな。
ひと昔前なら、特別なイベントで、特別な抽選や幸運に恵まれない限り、有名声優さんが自分のおたよりを読んでくれることなどありませんでした。しかも、声優さんではなくそのままのアニメキャラがセリフを直接しゃべってくれるなんて(たぶん)ほぼ例が無い。
それがですよ。
今では、毎日のように生放送しているVTuberさんに1万円さえ投げれば、ほぼ確実にそれが読んでもらえるのです。ただの棒読みではなく、ちゃんと『声とライブ2D』で演技を付けてくれた上で。アニメの公式イベントなどではたぶんアウトなちょいエロなセリフも、多少は許される。
そういう空気がそのチャンネルに満ちている。
こりゃあ恐ろしいほどの劇薬ですがな。
ハマる人はとことんハマっちまいますわ。
実写のYouTuberにはそこまで惹かれなかった人も、アニメ調のVTuberがコレをやってくれると理解した瞬間、強烈なファンになってしまうものなのでしょう(今は『ファン』ではなく『推し』というのですね)。
『誰かに反応してもらえる』
という人類の根源的な欲求。それが、
『自分好みの容姿や声をしたアニメキャラ』が『自分の考えたセリフ』をその場で読んでくれる。満たしてくれる。それを毎日のようにやってくれるんですから。
今まではアイドルの握手会などで有名人から即レスポンスをもらえることはありましたが、アニメキャラでこれをやるのは(ほぼ)例がなかった。
それが今では、赤スパさえ投げれば、アニメキャラが自分の思い通りにしゃべってくれる(とファンの目には映る)。
こりゃ革命ですわ。
脳汁どばどばですわ。
なるほど実写メインのYouTuberではなく、それとは別枠としてのVTuberが世間で取り沙汰されるわけだ——と個人的に納得がいったのでした。
◆ ◆ ◆
で、以上を踏まえた上での話なのですが……。
自分はいわゆる【他者への依存】という要素が薄い人間です。
ハマっていることといえば『ちょっと活字中毒気味かも……』とは思わなくもないですが、しかし誰か特定の人物に
つまりまあVTuberファンにケンカを売るわけではないんですけど、
『お金を払ってでも、特定のVTuberにコメントを読んでもらいたい』という感覚が、個人的にはあまり理解できなかったのであります。
そんな自分でも、【職業:VTuber】という“
顔も知らない人の書いたコメントに、
ゲーム配信などをする場合、ゲームの操作をしつつ、配信用の機材も調整しつつ、コメント欄もチェックしつつ、コメント返しもしつつ、1時間も2時間もしゃべるネタが尽きず視聴者を飽きさせない——こりゃ神ワザですがな。
最初見たときはそれがあまりにも自然なので、あとから「すげー」と思いましたわ。
◆ ◆ ◆
かつては誰もが平等だったネット上の空間も、近年は個人個人の属性を隠しきれなくなっています。というかむしろ己の社会属性を大っぴらにするのが主流といえるでしょう。
昔は会社の社長も小学生も【同じ1個人】として発言ができた、話を聞いてもらえたネット社会。
それが今ではリアルの社会的立場が半ば可視化され、発言内容にふさわしい『身分』でなければ見向きもされない——そんな傾向。
しかしVTuberのコメント欄では、誰もが平等である——という空気が満ちているように思えます。
スパチャの有無に関係なく『同じライバーを推す仲間であれば皆平等』という雰囲気。
実写ではなくアニメ絵というVTuberの特性ゆえか、そんな昔のネット空間を思わせる
それが、VTuberが人気になっている隠れた理由なのではないか。
現実社会は堅苦しくて、SNS社会もマウントの取り合いで息苦しい。
実写のYouTuberは所詮現実の延長。
しかしVTuberはアニメ系の見た目をしているため、世知辛い現実を忘れさせてくれる。
アニメキャラとのリアルタイム会話という、かつてのオタクの夢が実現している。
匿名性を求めて、つかの間の休息を求めて、2次元キャラからの反応を求めて、同士に包まれる空間を求めて——。
そんな人たちが集い、VTuberブームというものを牽引しているのか——と思った次第であります。
自分としてはVTuberに『ハマる』までには至らなくとも、ハマる理由は理解できたつもりなので、この半年間の勉強は有意義だったと思います。
VTuberのどこが面白いのか? たけや屋 @TAKEYAYA
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