第4話

 祭りの日は予想以上に忙しかった。朝からどこかへ手伝いをしに行こうにも例の青年のことを聞かれ、乙女たちから逃げ回る次第であった。

あいつが何よ。そんなに気になるなら自分で聞けばいいのに!


 唯一誰にも邪魔されない家で塀にらんたんを吊るそうと塀に出てみた。するとロジャーが夜に広場で焼く肉とワインの入った樽を荷物馬で運んでいた。顔をしかめ、息を切らしてとても大変そうだった。

「ねぇロジャー!大変そうね。これが終わったら私も暇だから手伝うわよ」

 ロジャーは少し頬を赤らめ

「いい。」

 とそっぽ向いてしまった。

「何よ。人がせっかく手伝おうと──」

 今度はロジャーの声でテリアの声は掻き消された。

「お前今日の祭り誰と踊んの?」

 思わず首を傾げた。

「誰っていつも通り幹部席で眺めるだけよ。私踊るの下手だし…それにロジャーもいつも食べてばかりじゃない」

 むきになってそう言うとロジャーは信じられないと言うように言った。

「お前も俺も今年で16だろ?そしたら好きなやつに気持ち伝えて、そんでどっちも同じ気持ちだったら踊るって──お前知らなかったのか?今までずっと村に住んでたのにそんなことも知らなかったのかよ」

 あの父のことだから教えないのも無理はない。男子と少し話しているところを見ただけで痛いくらいの視線が向けられる。相当の親馬鹿である。しかし、それで私が非常識だと言われるのは納得できない。

「何よ!私だってきっと素敵な人がダンスを申し出てくれるわよ。教えてくれてどうもありがとね!」

 そっぽ向いてらんたんを取ろうとするとロジャーが強く私の腕を掴んでいた。

「あっごめん」

 腕は離されたが思いもしないことに呆然としているとさっきよりいっそう顔を赤らめて言った。

「お前、他のやつの誘い、断れよな」

 考えたが意味が分からなかったので聞こうとして振り返ったがロジャーの背中はもう遠くにあった。今日はひどく忙しいのになおさら頭を抱えたくなるのだった。


 色々疲れたので誰にも邪魔されない家に戻るとお父さんがドアの音で帰ってきたことに気づいたらしく、テリアと呼んでいた。少し湿っぽい声にらしくないなと思いながら、声がした2階に行くと私が5歳の時に病気で死んてしまったお母さんの部屋で手に、何か持ち窓辺で少しずつであるが沈みつつある日を眺めていた。

「何してるの、お父さん。」

 なんとなくお父さんが寂しげだったので声が小さくなってしまった。

「テリア…今日の祭りはアルバート侯爵の息子のアレン殿と踊ることになってもいいかい?」

 顔は笑っていたが、父の口調がなくなんとなくいつもと違く、違和感からかこっちが身じろぎしてしまった。

「特に踊りたい人もいないしいいけど、なんで?」

 ロジャーにも他の男と踊るなといわれていたけど、多分貴族の彼は入っていないだろうからいいやと思った。

「そうか…ならよかった。」

 お父さんはほんとうに寂しげで不吉なものさえ感じた。

「あと、これを…髪にさしてとめるといい。ビアもとても似合っていた。」

 ビアというのは私の母の名前だ。

 そして目の前に出されたのは銀の細長い棒の端に牡丹色の大きな宝石が組み込まれた髪飾り。その周りには桃色の花が散りばめられ、揺らすとしゃらんと音がした。見たことのない形でこの国で作られたものではなさそうだった。こんな小さな村でどうしてこんな高価なものが…?と思ったがこんな機会はなかなか無いので有り難く頂戴した。

「う、うん」

「それな…ビアの形見なんだよ。だから大事にしろよ」

「わかった」

 祭りの日なのに重苦しい気分が移るのは嫌なのでお礼を言って退室した。

 そろそろ祭りの時間なので服を着替える事にした。若草色のワンピースは我ながら自分の緋色の髪に映えると思った。いつも二つにわけて髪を縄のように結っているが今日はあの髪飾りをつけるために後ろでお団子をつくり、その髪飾りでさしてとめた。久しぶりのおめかしに1人鏡の前ではしゃいでいた。

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