第2話

「いやね、最近は雨は降らないのにこんな天気なんだから。野菜も育ち盛りの時期なのにこんなんじゃ腐らさちゃうわよ」

 鉛色の空に際立つような燃えたぎる炎の赤い髪色。艶のある長い髪を2つにわけて縄のように結ってもその目立ちようは変わらなかった。

 彼女は北のカルロッタ村の村長の1人娘、テリア・マジスティである。

「大丈夫ですよ、テリアお嬢様。この時期を抜ければ太陽がたんと降り注ぐ時期に移り変わるのです」

 5つ上の侍女のマリエッタはなだめながらそう言った。

「そうかしらねぇ。この空を見ているとずっとこんな天気じゃないかって思っちゃうわよね。

なんか不吉だわ」

 畑から家に戻ると見慣れないいかにも高価そうな馬車があった。

 幼馴染のロジャーがどうやら馬車の番をしているらしく、退屈そうにしていたので声をかけた。

「ねぇロジャー、誰か来たの?」

 顔を覗き込むように言うとロジャーはびっくりしたのかうわっと大きな声を出した。

「お嬢さんはもうお年頃なんだからもう少し節度を持って行動して─ ─」

 その言葉は敢え無く轟音に掻き消された。

「私だってあなたに言われなくても節度くらい持って話せるわよ!」

 憤慨したテリアは立ち去ってしまった。

 ロジャーはテリアの人とのそういう近すぎる距離感が駄目なんだとため息をついた。

 結局誰が来たのか分からなかったわとテリアがぶつぶつ言いながら居間に入ると、2人の男性が座っていた。その人たちは私に気づき会釈をした。戸惑いながらも会釈をかえすと父は咳払いをして話を始めた。

「この村にゃ何もありゃしないよ。あるのは馬とほんの土地さ。そんな村の何を捜査するのさ」

「村長さん。この国の女王様がこの村でなにか大きな力が眠っているというお告げがでたのです。何卒少しどういうところなのかだけでも見させて頂けないでしょうか」 

「駄目だ駄目だ!この村を乗っ取ろうとしたって無駄さ!」

 父の考えも分からなくはないけど、折角こんな辺鄙なところまで足を運んだこの男の人たちが可哀想だわ…

「ねぇ父さん、女王様がかかわっているのだからとても重要なことなのではないかしら、こんなとこに来るのも大変だったろうにそのうえこの仕打ちはあんまりよ」

「これは私達の身分証明書です」

「……」

 絶句である。

 差し出されたのはいかにも高級そうなシルクに黄金の刺繍の文字でセルヴァーン侯爵家と施されている。これが本物ならとんでもなく失礼をはたらいたことになる。

 村長はしばらく唸っていたがついにそれを見て、腹をくくり

「うぅん…しょうがない、いいだろう。だが私たちのすることに口は出すな。盗みをしたらすぐに追っ払ってやるわい。人殺しなどもっての外だからな!」

 この上から目線が村民には板につく態度なのだが状況が状況だ。こんなお金持ちそうな人に喧嘩を売って…もう何してるのよ!

「承知しました。誠に恐縮ですが泊まれる場所などあれば泊まらせて頂きたいのですが…」

 髪がところどころ白くなっている紳士が言った。

「まあ私がいいと言ったからには2人用の客室を1部屋貸そう。1週間なら、まあ食事も出す。満足か?」

「どうもありがとう」

 そして二人して私の方を向き紳士は微笑みを浮かべ、こう言った。

「どうもお嬢さん。村長殿の娘さんですか?」

「あ、…はい。テリア・マジスティと申します。今ほどの─父の不躾な態度、お許し下さい」

 緊張して声が裏返りそうになった。

 それに気づいたのか紳士はふっと笑ってすごく優しい声色で言った。

「そんな緊張しなくても大丈夫ですよ。申し遅れてすみません。セルヴァーン侯爵家の領主アルバートと申します。隣にいるのは息子のアレンと申します。少しばかりお邪魔になりますが何卒よろしくお願いいたします」

「はぁ…」

 とりあえず会釈をして別れた。あの紳士は良い人さうだったが隣の若い人は終始不機嫌そうでよく分からなかった。それにしたってあんな高貴そうなお方がこんなところにいてこちらが気後れしそうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る