赤髪のテリア

つかさ

第1話

 『北の聖地カルロッタは王座をも揺るがす大きな力が眠っている。それを一族繁栄に生かすも我が身もろとも滅ぼすかも秘めたる力を使う者によるのだ』

 張り詰めた空気が困惑に変わった。100年に1度、神聖なる女王に神からのお告げが降りる。

 だがカルロッタという地名を知っている者は限りなく少なかった。

 皆が呆然としている中、ただ一人、得意げな表情をしている男がいる。長身かつ武人たる体格。白髪混じりだがまだまだ健全な癖毛のブロンドヘアーに自信に満ち溢れている琥珀色の瞳、アルバート・セルヴァーン。

 このジャルノバ王国の主に北の広範囲に領地を置き、また政治にも王族と強い繋がりを持つセルヴァーン家の領主アルバート侯爵は地理に深く精通しており、カルロッタも少し時間はかかったが、思い出すことができた。カルロッタはセルヴァーン家の領地の目と鼻の先である。カルロッタに最も近いセルヴァーン家は圧倒的に有利であった。

 まぁ、その力とやらはその地に行ってから考えるとしよう。

 この通り北は懐は大きく、寛大であり、その気性からか優れた文学者や知識人を多く輩出している。だが、悠然と構えすぎているところがあり、基本的に能天気だ。

 それに対して南は気が短く、治安は良くないが、行動力、団結力があり、軍隊などの軍事的な集団での結束力は抜きん出て優れていた。

政治でも北のセルヴァーン侯爵家、南のガルデジオ公爵家が最大勢力であり衝突しなかった試しがない。

 アルバート侯爵は北の模範人物と言える人物であった。

 彼が王宮を出るとセルヴァーン家の馬車に取り巻きが出来ていた。歓喜の悲鳴も多々聞こえる。その中に人を掻き分けて入るとその聴衆を気にもせず馬車に寄っかかりちゃっかり読書をしている息子がいた。少年とも青年ともつけがたいような体格と落ち着いたブロンドの髪色と琥珀色の瞳。少し癖毛で繊細で細い髪が黒南風にあたり少し蒸しっぽいが気持ち良さげにそよいでいた。

「おい、アレン。もうそんなことしていていい年頃でないぞ。それにここは王宮の目と鼻の先だ。セルヴァーン家の嫡男がこれだと知られたらセルヴァーン家末裔までの不名誉だ」

 アレンはその琥珀色の瞳を細め、くしゃっと笑った。アレンと同じくらいの青年がそれをしては見ていてこちらが恥ずかしくなるような動作だかアレンがすれば老若男女恨めず惚れてさえしまう者も少なくないのだ。そしてまた黄色い悲鳴が聞こえる。そしてそれが無自覚なのが怖い。

「あ、父さん。馬車ヘどうぞ」

 無垢なのは確かだが頭はきれる。王宮に何故呼び出されたのか既に把握しているのだろう。

「あぁ、このまま北のアストロ城へ行く。どうやらセルヴァーン家が繁栄するか滅亡するかが決まるらしい」

 アレンは思わずため息をつく。

「なんでそんな辺鄙なところに?」

「そこまでは把握してなかったんだな。女王様のお告げだよ。今まで外れた試しがないんだ。カルロッタに大きな力が眠っているんだと、それを使う者次第では繁栄か滅亡らしい。試して見る価値はあるじゃないか。そこ周辺の領地を治めているのは他でもないこの私なのだから」


 馬車は最北の城、アストロ城へ出発した。空には雷鳴が響き渡り鉛色の空がなんとなく不吉なものを感じさせた。

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