第5話
「ん、ちゃん、しんちゃん、」
「ん゛…ぅ…」
肩が揺れる感覚で目を覚ますと、ただならない表情の直哉さん。
(まさか…!!)
手で尻周りを触るけれど、よかった、濡れてない。
「何でこんなとこで寝てるの!!悪化するでしょ!?」
怒ったような声で、急いで体を起こされて、布団に押し込められる。
「とりあえず布団入って!!湯たんぽ入れてるから!!」
「あ、ゃ、おれ、」
「もー!!こんな冬に何考えてんの!!ほら熱測って!!寒くない!?」
「直ー、茶淹れてきた」
反論する暇もなく、脇に体温計を挟まれて、伊吹さんの持ってきた温かいマグカップを握らされる。
「7度9分…やっぱり熱あるじゃん…もー...」
呆れたような声。小さくごめんなさいと呟く。
「何かあってからじゃ遅いの。本当はこれだけ熱があったら病院に行っておきたいし、1人で帰ってきただろうけど、途中で倒れちゃったら大変だし。言ってくれたら迎えにだって行ったんだよ?」
温かい布団の中で、温かいものを飲むとまた眠い。
「お昼になったらまた起こすから寝ちゃいな」
そういってかけてくれた布団の上からぽんぽんと体を叩き始める。子供扱いされてる。子供じゃないのに。
「あの、もうだいじょうぶ、ですから…」
「だーめ。寝るまで見張ってます」
「ん…でも、ぉれ…」
おねしょしちゃう。さっき飲んだし、といれいかないと。起きていないと、何なら今から行かないとって思うのに、それすらも億劫なほどに眠気に抗えなくて。体にかかるちょうどいい振動とともに、意識が遠のいてしまう。
「やっちゃった…」
目を開けると部屋は暗く、誰もいない。でも、それに気づく前に自分のしでかしたことに気づいた。じっとりと湿った下半身。体を起こすと背中までに到達していることに気づく。
「どーしよ…」
熱い頭で考える。ボーッとして頭が回らないけど、泣きたくなるほどの羞恥心と、焦燥感は増していくばかり。どうしよう、この惨状。
(ゆたんぽ…)
すっかり冷え切った湯たんぽ。タオルを剥ぐと、白のプラスチックが顔をだす。
(これ、こぼしたことにすれば…)
蓋を開けて、自分の濡れた股間に流す。じわぁ…と冷たい水が広がって、さっきよりも大きくなる染み。でも、してから気づく。不自然すぎる。剥いだタオルは全く濡れてないし、おしっこ特有のアンモニア臭だってある。絶対にバレる。俺だって分かるのに。
(片付けないと)
片付けて、隠さないと。シーツ剥がして、どっかにやって、そんで、ちゃんとやって。洗濯機に放り込んでから直哉さんに言えばいい。湯たんぽ零しちゃったって。布団から降りて、着替えを一式取り出して、濡れたものを脱いでいく。
きゅうぅぅ…
不意にお腹が疼く。その正体はすぐにわかった。きっとさっきかけた水が原因。冷気に不用意に冷やされて、催してしまった。おしっこしたい。それもものすごく。
小さく小刻みにステップを踏みながら、拭くことを諦めてひたすらに身につけていく。チンコがヒクヒクして、下腹部が生き物みたいに痙攣してる気さえする。
早く、シーツ持って、洗濯ボタンおして、そんでおしっこいかなきゃ。掛け布団を退けて、お尻を突き出しながら中腰でシーツを剥がしていく。大丈夫、この前直哉さんと一緒に片付け、した。剥がして、洗濯機に入れるだけ。
大丈夫、間に合う。
独特なアンモニア臭が微かに鼻を掠めて何度も出口が緩む。ここは便器だ、おしっこしなさいって概念が、何なら、放出している途中、気持ちいいねって脳が勘違いしそうになる。
(ちがう、ここは、へや、おしっこはこれ終わったらだから、)
まるで言い聞かせるみたいに、何度も何度も脳内に諭して、それでも何度も何度も出口に押し寄せてくるから、片方の手で何度も撫でて、暇を持て余した膝を何度も持ち上げて。
やっと、シーツが剥がせる。
(あ…しーつのした、どうやるんだっけ…)
シーツを剥がしてもなお見える、大きな大きな染み。何か、スプレーみたいなの、してた、けど…
しょおおおおおおおおっ、
「あっ、ぃやっ、」
一瞬のフリーズの間を、おしっこは逃してくれなかった。着替えたての乾いた服を容赦なく濡らして地面にびだびだと落ちる。チンコを握りしめる余裕もなく、シーツを握りしめ中腰のまま、重ね合わされた足を伝い、伝いきれなかった液体が尻を突き抜け落ちる。お腹が急に軽くなるのが気持ちくて、でも、とんでもないことをしてしまったっていうことだけはわかっていて、でもどうしようもなくて固まる。
ぢゅいいいいっ、ぢゅいっ、ぢゅぅううう…
「っは…っぁ、…ぁ…おれ、」
力が抜けて、水溜りの中に座りこむ。さっきよりも酷くなった惨状。
(もらした。といれ、まにあわなかった。おねしょ、した。ごまかそうとした。かたづけかたもわすれた)
高校生にもなって。
「っひっ、ぅ゛ぅ゛ぁぁぁ…」
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