第3話

ぴぴ…ぴぴ…

「っ!!!よかっ、た…」

ケータイから流れるアラーム音。しかし時計の短針はまだ2時を指している。

あの日のから俺はより失敗をしないように徹底するようになった。シーツにタオルを敷いて、夜中に何回か起きてトイレにいくようにして。お陰であれから2週間が経つけど、やらかしてはいない。ちゃんと睡眠周期に合わせてるから、大丈夫なはず。



「あ、慎だ。おはよう」

朝起きて洗面台に向かうと、先客がいた。

「伊吹さん…珍しいですね、この時間にいるの」

「仕事がひと段落したから有給とった」

「そうなんですか」

一緒に暮らしているとはいえ、なかなか会うことのない伊吹さん。会うとしても休日で、しかも起きるのが俺より早いから、スウェット姿を見るのは新鮮だ。いつもサラサラのマッシュヘアに少し寝癖がついている。

「…あの、俺の顔に何かついてます?」

突然顔を覗き込まれ、黙り込む伊吹さん。少し吊り上がった細い切れ目で見つめられるなんだか少し緊張する。

「…あの…」

数秒、いや、数十秒。じっと見つめられて、瞼を引っ張られたり、頬を触られたり。

「…いや、顔真っ白だから。クマもできてる。最近ちゃんと寝てるの?」

「朝なので…あと最近忙しかったから…」

「ふーん…まあ無理するなよ」


(びっくりした…)

伊吹さんが部屋を出ていった後、改めて自分の顔を見るが、自分ではよくわからない。

(…でも気のせいだし)

最近ずっと体が怠い。でも特にこれといった症状出てるわけでもないから休めない。顔色を指摘されるぐらいだったらいっそのこと高熱でも出てしまえばいいのに。



(ねむい…)

2時間目の国語が20分ほど経った頃。とてつもない眠気に襲われる。いつもは我慢できる程度のものだったけど、今日はどう頑張っても目が閉じていく。

(う゛~…あと、30ぷん、まだ…)

ガタッ!!

「おいっ!!相田!?」

「っはっ、ぇ…」

うとうとして、ハッと目が覚めると、俺は椅子から落ちて尻餅をつくような形で床に座り込んでた。

「あっ、すみません!!」

(やっべ!!居眠りばれた!!)

慌てて椅子を起こして座り、謝罪する。しかし、先生はこちらに向かってくる。

「あの、せんせ?」

「いやお前…顔色めちゃくちゃ悪いから…保健室行ってもいいんだぞ?」

「いや、大袈裟ですって…」

「どうせ今日はあと十分で自習にするし、出席扱いにしとくから。具合良くなったら次の時間から参加しろ」

「いや…はい…すみません…」

「せんせーー!!俺もだりぃんで慎と一緒に保健室行っていいですかー!?」

「ただサボりたいだけだろ!!普段真面目な相田と一緒にするな!!」

お調子者な同級生の発言に場が笑いで包まれている教室をそっと後にして、保健室に入る。

「あらいらっしゃい。どうしたの?」

「あの、えっと…」

こういう時って何て言ったらいいんだろう。

「え、と…しんどくて…?」

「何で疑問系なの。とりあえずいらっしゃい」

「すみません…」

体温計を渡されるがもちろん熱なんてものは無く。一応さっきの出来事を話すと、寝てなさいとベッドを貸してもらえた。水色の立てかけられたカーテンを閉じると1人の空間が出来上がる。久しぶりに保健室にきた。転校する前は何にも言わずにベッドを占領して怒られたっけ。空きが無ければ本当に具合が悪くて休んでる人に舌打ちをしたりして、また怒られて。あんな姿、直哉さん達にも先生達にも見せられないなぁ…

まどろむ意識のなかそんな事をぼんやりと考えていると、いつのまにか眠りに落ちていた。




 眠い…寝ちゃだめだ…今は、授業中…

『おい、あいだ、相田!!』

ハッと目が覚めると先生が目の前にいる。

それに、周りが騒がしい。

しょおおおおお…

恐る恐る下を見ると、自分の股間から水が垂れていて。

『高校生にもなって小便漏らすかよ…』

『しかも寝ながら…エグくね?』

いつも仲良くしてくれている奴も、先生でさえもどん引いた顔でこちらを見ている。

さぁっと目の前が真っ暗になる。心臓の音がうるさい。息が苦しくて、前がぐらぐらして。


「っはぁっ!!ぁ、っはぁ…」

勢いよく飛び起きると椅子ではなく、布団の上にいた。マラソン後みたいに息苦しく、寒いのに身体中にじっとりと汗が滲んでいて気持ち悪い。

「あら起きた?気分はどう?」

「ぁ…ぇと…」

恐る恐る布団の下に手を挟む。

(よかった…濡れてない…)

「ちょっと顔が赤いわね…もう一回体温測ってくれる?」

流石保険の先生とでもいうべきか。さっきよりも少し上がって微熱と呼ばれるほどに発熱していた。

「風邪のひき始めなのかもね。悪化しないうちに帰りなさい」

「っは、はい…」

正直ほっとした。このまま布団の中に居たらまた眠くなって寝てしまうし、授業に戻ってもさっきの夢みたいなことになってしまったら、怖いし。クラスメイトが持ってきてくれた鞄を持ち、サッカーをしているグラウンドを横切って校門を出たのであった。

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