第18話 日本で最も聖なる山

日本国内にあれば、和気清麻呂は元宮にいけばいいのである。遠い場所にあり、行くことができないので宇佐神宮におもむいたのであろう。またヒメ神の奥宮は、神宮から南に約五キロの地にある御許山である。大元神社と称しており、神道の概念ではここは紛れもなく「奥宮」である。

そして神宮の奥宮といっても、もちろんヒメ神の奥宮であってヤハタ神には直接の関係はなく、まして応神天皇や神功皇后とは無関係である。御許山は、宇佐神宮に比べて神さびたたずまいの霊地である。御許山は、その山が御神であり社伝ではヒメ神が降り立ったとされる。

なお境内全体の構成は、祀られている神の性格を表しているのだが、宇佐神宮は本殿を取り囲むようにいくつもの社祠が二重、三重に建てられている。そこに祀られている神々も多様である。

つまり、二重三重に鎮祀されているのが宇佐神宮なのである。そのように祀り上げなければならないほどの事情があった、ということである。

一方奥宮の大元神社・御許山には、取り囲むような社祠はない。これは、鎮魂も慰霊も為す必要のないことを示している。

いうこともないことだが、霊山・聖山の発見はひとり日本だけのものでない。大陸では泰山、朝鮮半島には白頭山など同様の例を見出すことができる。特に泰山は、始皇帝が最初に「封禅」の儀式を行ったことで知られている。封禅の儀式は、真の皇帝たる証しとしてそれ以来の歴代の覇王たちは始皇帝にならって泰山封禅を行うことを目指した。

しかし実現したのは前漢の武帝、後漢の光武帝、周の武則天、唐の玄宗など少数の限られた帝王のみである。つまり聖なる山、泰山は本質的な存在証明になるのである。

御許山こそは、日本の泰山的な山である。御許山は初めて日本で封禅を行った場所だと考えられる。ここはこのような理由で聖地・霊地であったが以後も日本の歴史を左右するほどの霊力をもたらした。

御許山の信仰はそれほどに尊いもので、日本で最も権威ある聖なる山である。

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