第7話 ヤマタノオロチとは自然災害

実力はともかく、尾張氏は天皇家よりヤマトでの家格は上だった。ヤマトの豪族が、草薙剣の所有と名称の変更を認めたのがその証拠である。まだこの時代、基本的には天皇家はヤマトの豪族の一員で、全てを決めることができなかったことを示している。

また、すでに紹介したように三種の神器のうち草薙剣のみが「実見」の記憶が複数あり、そればかりか「盗難」による被害にまで遭っている。千数百年間で見ればわずかな回数であるが、八尺鏡本体や八坂瓊曲玉本体の処遇、あるいは運命と比べるといささか「畏敬」に欠けるきらいがないとはいえない。

そして、それにはやはりそれだけの理由があるのだろう。それでも、最終的に神器として認定されたのはまぎれもない事実である。認定されるべき重大なものを、草薙剣はもっているのだ。

さらに、それを天皇家が認めているのである。草薙剣は、何を語っているのか。

それは、草薙剣の誕生したヤマタノオロチに重要なヒントがある。ヤマタノオロチは、八つの頭をもつ邪蛇でこれは自然災害をあらわしている。天業雲剣は、天候に負けない剣として草薙剣と名称変更をおこなったのだ。  

古代はまだ灌漑技術も食物の成育方法も未熟で、農作物の生産性も今よりずっと低かった。そんな未成熟な農業では、天候その他害虫などによる被害で壊滅的な損害が出るのも珍しくなかった。まして、この時代の気候変動で地球規模で寒冷化が進んでいた。朝鮮半島や北・東日本では、これにより食べるものがなにもないほどの深刻な飢饉が生じた。天業雲剣の本当の意味は、天候不順(ヤマタノオロチ)に負けた剣でヤマトタケルはそれによって食料難民が多く出た東夷に農業生産技術を教え、天候に負けないように指導したのであろう。

それこそがヤマトタケルが、東夷征討にだけ天業雲剣を授けられ熱田神宮に遷された理由であった。尾張氏は農作物の不作が続く東夷の治安や風紀の監視、また稲など作物の成育状況の監視を密かにおけなう役目を負っていた。

そして東夷を偵察し、不穏な人物や空気が漂うと朝廷に報告し、朝廷の指示を受けて出先機関として働いた。

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