第5話 ヤマトタケル皇位継承の儀式

一つは三種の神器のうち八尺鏡と天業雲剣が、それまで伊勢神宮にあったこと。もう一つは、倭姫命によって天業雲剣がヤマトタケルに授与されたということ。最後は、天業雲剣の佩刀が出雲・熊襲の時でなく、東夷征討の時だけだったこと。この三つの事実が示す意味は重い。

まず、一つの事柄について説き明かそう。第十代・崇神天皇の時、八尺の鏡と天業雲剣が祟りを為したので皇居の外に祀ることとした。奉仕したのは、皇女・豊鋤入姫命である。その後、奉仕の役目は豊鋤入姫命から倭姫命へと引き継がれる。倭姫命は、第十一代垂任天皇の第四皇女、二種の神器にふさわしい鎮座地を求めて遷御をおこない、最終的に伊勢の地に御鎮座とする。これが、伊勢神宮である。

そして、倭姫命は初代斎宮となった。こうして三種の神器の一つである天業雲剣は、ヤマトタケルの東夷征討時に倭姫命から授けられた。これは、まぎれもない皇位継承の儀式である。無事に帰還すれば、次期天皇として王座が待っているはずである。

しかし彼は、東夷征討に成功したのになぜか途中で謎の死をとげる。まるでヤマトタケルが天皇になれない理由があるかのようだ。

ところで、天皇の三種の神器の一つとして尊ばれた草薙剣をなぜ尾張氏が保有し続け、朝廷に返上しなかったのか。また朝廷も尾張氏に対して、なぜ返上を命じなかったかを考えよう。

記・紀をいくら読んでも、ヤマトタケルが草薙剣を熱海に置いて行く理由は見当たらない。倭姫命から授けられたからといって、以後自由勝手にしてよいということではないだろう。東征の守護剣として授けられたのであって、無事に任務を果たしたならば、最終的には返還するべきだろう。

これまでの経緯を考えれば、ヤマトタケルは草薙剣を他人に預けてはならない。であるならば、その答えは一つしかない。

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