第6話 母と信広たちのため 

 とはいうものの信秀は、いくさには情熱を燃やしていた。彼の兵は弱い。理由は簡単、金で雇われている傭兵だからだ。

 戦国時代の武士の多くは、土地を守ることに命をかけていた。大名が武士の土地を守ることで、強い主従関係を結んでいたからだ。しかし傭兵は守るべき土地はない分、負けとわかればすぐに逃げる。

 武士と大名が御輿で対等な関係であるのに対して、傭兵は主人のお金で雇われているため主人の立場は強かった。信秀のいうことはなんでも聞いたが、何かもの足りなさを感じていた。

 かという彼も、土田御前には頭が上がらず彼女に従う自分に嫌気をさしていた。嫡男信広には、そんな立場になってほしくない。信秀は、信広のために覚悟を決めて三河出兵を決意した。

「おい、俺は安祥の城を落としたぞ!

ハハハやったぞ。これはすごいことだぞ」

 古渡城に凱旋した信秀は、いつになく上機嫌で土田御前に話しかけていた。

「お前さんはやっぱり見込みどおりの男です。私もすごいと思います」

「まあ、他国といっても三河は隣だ。まあなんてことはない。

これで倅も一国一城の主だ。我が織田家もただの足軽請負業者ではないぞ。

一皮むけたかんじだな」

「そうです。これからは他国にもどんどん出ていってもらいます。

私にまかせとけばいいのです」

「お前のいうとおりだ。

俺やるぞ。

今日はつかれた。寝てくる」

 信秀は、そう言って布団をかぶってすぐに高いびきをかいて寝てしまった。

 天文十一年八月織田信秀は三河に侵攻、三河小豆坂で松平広忠を破り安祥城を奪い取った。これによって信秀は、新たな拠点を手に入れて新境地に進んでいく。

 しかし、土田御前の真の狙いは美濃であった。三河は、その前の事前事業の一環にすぎない。信秀の他国への毛嫌いや不安を払拭させ、やる気にさせることが目的だった。

 それに自分も他国での経験を積み、美濃で生かすための実験場なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る