第18話 空耳楽団

 その日はリルが拠点に来て初めて雨が降った。

 リルは神獣たちと外で遊んでいたのだが、空からポツポツと雫が降ってきたのだ。リル達は慌ててアスレチックの下に避難した。

『すぐ止むよ』

 雨の気配に敏感な鳥たちがそう言う。通り雨なのだろう。

 リル達は雨が止むのをのんびり待つことにした。

 

 雨粒がアスレチックに当たって色々な音を立てる。地下育ちで雨を知らないリルはそれがとても面白いと思った。鳥たちも雨に合わせて歌い出す。

 まるで演奏会だ。ウサギやタヌキたちも飛び跳ねて踊っているようだ。リルは楽しくなってしまった。

『僕たちも踊ろうか?』

 マロンの言葉にリルは飛び跳ねた。銀狼やトラたちも音楽に合わせてしっぽを振っている。それは楽しい時間だった。

 

 雨に気づいた留守番組のヘイデンが慌てて傘を持ってくるが、その光景を見て笑っていた。

 ヘイデンは倉庫から使っていない金属の鍋などを持ってくる。すると音の種類が増えて、鳥たちはそれに負けじと大きな声で歌い出す。

 リルはヘイデンに持ち上げられてクルクル回された。一緒に手を取って踊る。ヘイデンはダンスが上手いようだ。

 タヌキ達は楽しそうに足元を走り回っていて、みんな笑顔だった。

 

 次第に雨が止んでゆく。リルは少し寂しかった。

 ヘイデンがまた降るよと言ってリルの頭を撫でた。

 

 

 

 見回りに行っていた騎士たちがずぶ濡れで帰ってきた。

 森の巡回を早く切り上げてきたようだ。

 みんなお風呂に入るようだったのでリルも一緒に入ることにした。

 琥珀とマロンも一緒だ。マロンは男の子だがネズミなのでいいのである。

 

「急に降り出したけどリルは大丈夫だった?」

 ロザリンに聞かれたので、リルは雨宿りをした話をした。

「楽しそうで羨ましいです」

 グロリアは参加したかったようだ。

 また今度雨が降ったらお誘いしようとリルは思った。

 

 リルは石鹸を泡立てて琥珀を洗ってやる。雨が降っていたから足が泥んこだ。

 大きな琥珀を一生懸命洗っていると、マロンが手伝ってくれた。小さな手で頑張って琥珀の足を綺麗にしている。琥珀はくすぐったそうだ。

 見かねたグロリア達が手伝ってくれる。

 

 温泉に浸かりながらリルは思った。教えてもらった暦でいったら、今は秋なはずだ。冬になったら雪は降るのだろうか。

 グロリア達に聞いてみる。

 

「雪はたくさん降りますよ、冬になったらみんなで雪かきしましょうね」

 

 たくさん降ると聞いてリルはとても楽しみになった。

『みちるちゃん』の記憶の中でも、雪の記憶はあまり無い。雪だるまやカマクラを作ってみたかった。

 

 そういえば、神獣達は冬眠するのだろうか?

 リルは少し心配になった。

 冬になったら会えなくなる子がいるかもしれない。

「神獣は冬眠するの?」

 恐る恐る琥珀に聞いてみる。

『神獣と魔物は冬眠なんてしないわ。冬の間は魔物を狩って食べたり、草食の弱い子は秋の間に食べ物を集めていたり、強い子から魔物のお肉を分けてもらったりするのよ』

 草食なのに一応お肉も食べられるらしい、神獣は胃が強いんだなとリルは感心した。

『草食の子はあんまりお肉を美味しく感じないから、仕方なく食べるって話さ』

 マロンが温泉の入った桶ごと温泉に浮かんで言った。そうするとお湯が冷めなくていいらしい。

 しかし、お肉は美味しくないのか、なら温室を作って冬も果物を育てたらどうだろうとリルは思った。


「グロリアさん、魔法で温室って作れますか?」

「温室?魔法と言うより魔道具なら部屋を温めるものがありますよ」

 リルは喜んだ。コレで果物を育てられる。

「リルちゃん、神獣さんのために温室を作るの?またメイナードが張り切るわね」

 そうだ、メイナードならきっと素晴らしい温室を作ってくれるだろう。リルは彼にお願いしようと決めた。

 

 

 

 お風呂からあがると、リルは早速メイナードにお願いをした。

 メイナードは快く了承して、早速設計図を描き始めた。実に楽しそうであった。

 イアンはもう諦めたらしく何も言わない。

 ただリルに果物の育て方を教えられる人が居ただろうかと心配していた。今度本を買ってこようと思った。

 しかし植物を育てるのは情操教育に良さそうだと考えたイアンは、もうすっかり立派なお父さんだった。結婚などしていなくても、父にはなれるものである。

 

 一方メイナードはいくつか温室の案を出していた。ガラスの温室にビニールハウスのようなもの、リルはどれにしようか迷った。

 結局かっこいいガラスの温室を選んだ。

 

 マーティンが記憶の中から、短期間で収穫できる果物をリストアップしてくれた。お茶が趣味の彼は、以前植物図鑑を読んだことがあるそうだ。

 ロザリンは可愛い作業服を作ってくれるという。リルはとてもワクワクした。

 ヘイデンは何かしようとしたが、出来ることが見つからなかったらしく項垂れていた。彼はいつもそんな感じだが、リル的には彼はムードメーカーだと思っている。いちばん楽しい人だ。

 

 リルは温室の完成が楽しみだった。

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