第17話 ミレイユ
あれから三日ほどたった頃、ロザリンがマロンにもお揃いのリボンを作ってくれた。リルと琥珀とマロンは毎日お揃いのリボンで過ごせることが嬉しかった。
マロンはすっかり拠点に馴染んで、友達もできたようだ。言葉が上手だから、森のネズミたちから一目置かれているらしい。
神獣たちは人間の言葉を理解するが、その理解度にはどうしても差があるのだ。
とは言っても、マロンの言葉もリル以外の人間からしたらチュウチュウ鳴いているようにしか聞こえないのだが。
今日リルは、外でキツネさんたちとかけっこしていた。捕まえたらモフモフの罰ゲームだ。水場とアスレチックを作って以来、神獣たちは昼夜問わず拠点に遊びに来るようになった。特に森の浅い所に住んでいる小動物たちが多い。後はユラユラ籠ブランコでの日光浴が気に入ってしまったネコ科組だろうか。
リルはいつ外に出ても神獣達が居ることが嬉しかった。
『リル、誰か来たみたいよ』
琥珀が不意に声をかけてきた。誰か来ると言っている割には神獣たちが隠れない。いつもは拠点関係の人間以外が来ると隠れてしまうのだ。
「うわ、何だこれ」
琥珀が指す方向を見つめていると、銀狼に股がった青年の姿が見えた。
「リヴィ伯父さん!マーリン!」
リルは二人の元に駆けてゆく。マーリンから降りたリヴィアンはリルを抱き上げた。
「やあリル。しばらく見ないうちにすごく可愛くなったね」
リルは褒められて嬉しかった。琥珀とマロンのこともリヴィアンに紹介する。
リヴィアンはリルが元気そうで安心した。
「リルのパパは今どうしているのかな?用事があってきたんだけど」
リルはリヴィアンを連れて拠点の中に入る。団長室までリヴィアンを連れていった。
「お父さん!リヴィ伯父さんが来たよ!」
イアンは驚いて扉を開ける。
「案内ありがとうリル、イアンとお仕事の話をするから遊んでおいで」
リヴィアンはリルの頭を撫でるとイアンに招かれるまま団長室に入った。
「一体この拠点はどうしてしまったんだい?いや、好きに改築していいと言ったのは僕なんだけどね。限度というものがあると思わない?」
開口一番に拠点の変わりようを指摘され、イアンには返す言葉が無かった。
「なんで神獣もあんなに拠点に馴染んでるんだ。普通人間には近づきたがらないだろう」
「リルが居るからですかね。知らない人が来たらすぐ隠れますよ。兄上はマーリンを連れていたから大丈夫だったのでしょう」
イアンはお茶を入れるとリヴィアンの前に置く。
「で、用件はなんです?」
「聖女に会ってきた」
イアンは真剣な顔で続きを促した。聖女とはリルの双子の姉のミレイユのことだ。
「間違いなく一卵性双生児だね、リルの方が小さいし、痩せて居るけど顔立ちはそっくりだ。絶対に貴族には会わせないほうがいい」
イアンは落胆した。リルが自由に歩き回れるようにしてやりたかったのだが、希望が絶たれてしまった。
「しかし、良く会えましたね」
リヴィアンはため息をつく。
「国王が何処へ行くにも連れ回しているんだよ。まだ六歳なのに、可哀想に、疲れ果てた顔をしていたよ。あの国王はもうダメだ。完全に聖女のスキルに依存している」
嘘を見抜く『真実の目』は確かに有用なスキルだ。国王が依存するのも仕方がないのかもしれないとイアンは思う。
「それにしても、聖女はかなり賢いようだよ。国王の前で僕はあえて一つ嘘をついたんだけど、彼女は僕をじっと見ただけで指摘しなかった。相手が嘘をついたら国王の服を引くように言われているみたいだけど、彼女は明らかに伝える情報を選んでいた」
イアンは驚いた。リルもかなり賢いが、ミレイユはそれ以上なのかもしれないと思った。
「本当に可哀想だったよ。誰のことも信じていないような目をしていた。リルとは真逆で常に無表情だったんだ。嘘がわかるっていうのは悲しいことだね。リルと同じ顔だからかな、ちょっと情が湧いたみたいだ」
イアンは怒りを覚えた。姉の方は幸せに暮らしていると思っていた。この事をリルが知ったら何を思うだろうか。
「何とか助けられたらいいのだけどね、こればっかりは難しいよ。一応国王のそばに諜報員を置く事にした。何か混乱するような出来事があれば、死を偽装してから保護するようには言っている」
国王が依存して囲っているのに、そんなことが可能だろうか。イアンは思い悩んだ。
「リルは姉に関して何か言っていたかい?」
「姉に対しては好悪の感情は無いようです。一度も会ったことがないからと言っていました。恨んでもいないと言っています」
リヴィアンはほっとした様子だった。ミレイユに情が湧いたというのは本当のようだ。
「リルは大人だね。リルの境遇なら普通姉を恨むだろうに」
「恐らく『みちるちゃん』の教育の成果でしょう」
「ああ、姉の方にも守護霊が憑いていてくれたらいいのにね」
二人はお茶を飲みながらミレイユの今後を憂いた。
実はミレイユは家族にも国にも嫌気がさして、逃亡計画を企てている真っ最中なのだが、二人はそれを知らない。
姉妹が顔を合わせる日も遠くないかもしれない。
話が終わって拠点を出ると、リルがマーリンと琥珀とルイスと遊んでいた。琥珀の上に乗ってアスレチックを走り回ってご機嫌である。
リヴィアンとイアンは先程まで暗い話をしていたからか、彼女たちが眩しく見えた。
二人に気づいたリルが近づいてくる。
「お話は終わった?」
「ああ、終わったよ。マーリンと遊んでくれてありがとう」
リルは頭を撫でられて嬉しそうに笑った。
「リヴィ伯父さん!アスレチックの紹介するね!」
リルがリヴィアンの手を取って走り出す。一つ一つ丁寧に紹介していくリルの姿にリヴィアンは和んだ。
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