第19話 温室

 今日は温室を作る日だった。リルは楽しみで早く目が覚めた。

 お腹を出して寝ていた琥珀とマロンも起こして外に出ると、草食の神獣達が大集合していた。

 神獣たちには事前に温室を作ることを伝えてあった。

 その結果、草食代表であるウサギとシカが大勢やって来ていた。冬の食糧事情はリルが思っていたよりも深刻だったのだ。冬に美味しい果物が食べられるならとお礼を言いに来ていた。

 

 そして珍しくクマも来ていた。今回もお手伝いに来てくれたらしい。前回メイナードと戦ったクマもいる。

『冬に向けて温室を作ってくれるって聞いたわ。本当にありがとう。特にシカは毎年可哀想でね、見ていられなかったの』

 クマは弱い子達を守るのが仕事みたいなものだった。しかし食料に関してはどうすることも出来ずにいたのだ。

 リルのアイディアは弱い神獣たちにとって救いだった。

 

 

 

 みんなとお話ししていたらメイナードが起きてきた。

 シカとウサギの軍団にかなり驚いていたが、事情を聞いてもっとやる気になったようだ。必ず立派な温室にすると張り切っていた。

 

 今回の温室は組立式だった。事前にガラスに金属の枠を付けてもらっていたのだ。その枠を繋ぎ合わせることで温室になる。

 ガラスは断熱性と強度が魔法で上げられているらしく、高級品らしい。イアンが冬の神獣のためと申請したら予算がおりたそうだ。

 

 

 

 そして今回のことは議題に挙げられ、他の聖騎士の拠点でも同様の物を作ることにしたと聞いた。

 リルは『通訳者』として初めて国から依頼を貰った。内容は森にいる鳥達にお願いして、他の場所にいる神獣たちに、冬場拠点に来れば食料が貰える事を伝えてもらうというものだ。

 お願いしたら鷹達が快く引き受けてくれた。彼らも草食の子達を気にかけていたのだ。

 

 リルは沢山報酬を貰った。神獣とお話しするだけでお金が貰えるのは不思議な気分だが、それくらい神獣はこの国にとって大切なのだ。

 リルは少し考えを改める事にした。たくさん神獣たちと交流して、もっと人間と神獣が仲良くなれるように頑張ろうと決めた。

 

 

 

 メイナードとクマが温室を組み立てる。ガラス一枚一枚が重すぎて、リルは手伝えなかった。今回はグロリアの出番もないようだ。

 リル達はみんなで組立作業を応援する。

 屋根を組み立てる作業ではハラハラしてしまった。あんな重い物を落としたら大惨事だ。

 

 クマが手伝ってくれたのが良かったのだろう、朝食を挟んでから一時間ほどで温室が完成した。リルが入ってみたらちゃんと暖かかった。

 ウサギとシカ達は大喜びで温室の周りを回っている。

 

 


 温室が完成したら、次は鉢植えを運び入れる作業である。

 リルはロザリンが作ってくれた作業着に着替える。汚れが目立たないように茶色なのだが。所々にレースがあしらってあって可愛らしい。

 

 リルは果物は苗から育てるものだと思っていたが、それだと年単位の時間がかかるらしい。国が既に育っている鉢植えを用意してくれたので、それを温室の中に運び入れた。

 果物は育ての手間のかからないものを用意してくれたらしく、マニュアルも薄かった。

 これらの他になにか育てたいものがあれば自由に育てていいらしい。

 見たところベリー系が多いので、りんごを育てたいとリルは思った。『みちるちゃん』の記憶では、ウサギはりんごが好きだったはずだ。

 

 果物の他には野菜も育てるらしく、温室に土を入れてゆく。

 育てるのは人参とレタスと小松菜だ。収穫に二ヶ月程度しかかからないそうで、リルは今から収穫が楽しみだった。

 草食の子達は興味津々で温室を覗き込んでいる。

 ガラス越しに目が合うのが面白くてリルはつい笑ってしまった。

 

 結局全ての作業が終わったのは夕方だった。見回りに行っていた騎士たちが戻ってきて温室を褒める。ウサギ達も一緒に拍手していて可愛らしかった。

 リルは手伝ってくれたみんなにお礼を言って拠点の中に入った。神獣たちも元の住処へ帰ってゆく。

 


 

 夕食を食べながら、リルは他にも神獣達のために出来ることが無いか考えていた。しかし、そんなに都合よく考えは浮かばない。

『そんなに悩むことじゃないさ、何かあってから考えたらいいだろう?今の所みんな楽しく暮らしているんだから』

 マロンが気楽にいこうとリルを慰める。

『そうよ、一人でそんなに考え込む必要無いわ。毎日私達みんなとお話ししてたらきっと何か思い浮かぶわ』

 琥珀もそう言ってくれた。リルは確かにお話しすることが一番大切だと気づく。

 だって神獣とお話しできるのはリルだけなのだから。一人で悩んでもしょうがないのだ。

 もっとたくさん神獣達とお話ししようとリルは誓った。

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