第14話 可愛いは作れる
夕食の時間、話題は出来上がったばかりの水場のことだった。皆も流石に一日でできるとは思っていなかったらしく、驚愕していた。
リルがお願いしていた琥珀のアスレチックはちゃんと許可が降りて、明日材料を買って、明後日から制作に取り掛かることになった。
イアン曰く、拠点を好きに改造しても問題ないと国からの返答があったようで、メイナードは大興奮していた。他にも神獣たちのために作りたいものがあるとかで、大量の木材を発注したいと言っている。
イアンはまあ大丈夫だろうと許可を出したが、後々それを後悔することになる。メイナードの制作意欲は止まることを知らないのだ。
次の日リルが起きて顔を洗っていると、ロザリンに呼びかけられる。導かれるままロザリンの部屋に入ると、そこは布の海だった。
リルはあまりの光景に驚いた。ロザリンはそ知らぬ顔で布の中から何かを取り出すとリルに渡した。それは沢山のリボンと謎の布の山だった。リルは不思議そうに渡された袋の中を眺めている。
「それね、リルと琥珀のリボンなの、全部お揃いで用意してあるから使ってちょうだい」
リルはビックリして一つ取り出してみた。確かに琥珀の大きさにピッタリのリボンが入っていた。レースが縫い付けてあってとても可愛い。
琥珀がシッポを振って着けて欲しいと催促した。琥珀のリボンはサイズ調整ができるようになっていて、ホックで止める仕組みだった。
『みちるちゃん』が学生服によくあるタイプだと言っている。
琥珀の首につけると大きなリボンが可愛かった。琥珀も大喜びでロザリンに顔を擦り付けている。感謝の印らしい。
リルは琥珀に着けたのとお揃いのリボンを取り出す。こちらは普通のリボンで、どう着けようか迷った。
「おいで、髪を結ってあげる」
ロザリンに促されて鏡台の椅子に座ると、あっという間に髪が可愛く結いあげられてゆく。まるでシンデレラの魔法使いみたいだと『みちるちゃん』が言った。
仕上げに琥珀とお揃いのリボンを着けてもらって、とても嬉しかった。このお揃いのリボンがあと五種類あるのだ。
リルはロザリンに大変だったのではないかと聞いた。
「私『裁縫』のスキルを持ってるの。だからちっとも大変じゃないわ。むしろ何か作っている時が一番落ち着くのよ」
リルはメイナードさんと気が合いそうだなと思った。
そういう事ならと、リボンはありがたく頂くことにする。
リルはロザリンにお礼を言って外に向かった。
外では騎士たちが木材を大量に積み上げていた。発注した木材がもう届いたらしい。いくらなんでも早すぎないだろうか。
「お父さん、もう木材が届いたの?」
「ああ昨日の夜、魔道具の鳥を飛ばして連絡しておいたんだ。そしたら受け取りに行くと言っていたんだが、朝一番で届けてくれてな」
優しい店主さんだったらしい。
大量の木を前にして、メイナードさんが大興奮で構想を練っている。見かねたイアンが釘を刺す。
「お前は今日は見回りだ、二日連続でグロリアと抜けられたら困る」
メイナードさんは肩を落としていた。お仕事は大切だとリルは思う。
「それにしても、ふたりとも今日は可愛いな。ロザリンに貰ったのか?」
イアンはリルと琥珀の頭を撫でてやる。リルは上機嫌で髪も結ってもらったのだと報告する。イアンは目を細めて良かったなと言った。
リルが森の方を見ると、神獣たちが木陰からチラチラ顔をのぞかせていた。どうしてこちらに来ないのだろうと首を傾げる。
「さっきまで木材を運んでくれた人たちが居たからな、警戒しているんだろう」
リルは合点がいった。皆にもう大丈夫だよと声をかける。
すると木陰からみんな姿を現した。
今日はクマとリスとウサギとタヌキとキツネが居る。
『水場が出来たってタヌキに聞いたの、ありがとうね』
クマがそう言って木の実が沢山入った葉っぱのお皿をくれた。
「作ったのはメイナードさんとグロリアさんだよ。お礼を言ってたって伝えておくね」
『そうしてくれると嬉しいわ』
クマは遊んでいる他の子達を慈愛のこもった目で見つめている。みんなのお母さんみたいだなとリルは思った。
『ねえ、リル、これ何?』
それは以前メイナードが作ったブランコだった。リルが乗ってお手本を見せると、みんな乗りたがった。
小さい子達みんなでブランコにしがみついた所を揺らしてやる。
きゃっきゃと楽しそうな声が聞こえてリルも楽しくなった。
その後はクマに肩車をしてもらって遊んだ。ヘイデンに肩車して貰った時よりずっと視界が高くて面白い。クマは走ったり飛んだりしてくれてとてもスリリングだった。
イアン達はかなりハラハラしながらその光景を眺めていたのだが、リルは気が付かなかった。
「明日はアスレチックを作るんだよ」
リルがみんなに言うと絶対に明日も来ると言った。昨日水場が出来る様を見るのがとても楽しかったようだ。
『森の中は退屈なんだ』
キツネが不満そうに言った。確かに森にずっと暮らしていたらそう思うだろう。リルはいつでも遊びにおいでと言ってキツネの頭を撫でた。
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