第15話 アスレチックを作ろう

 リルはその日いつもよりずっと早起きした。まだ眠っている琥珀を少し強引に起こして外に向かう。

 そうしたらメイナードが既に起きて庭にいた。

 メイナードは設計図とにらめっこしている。そして地面に棒で印をつけていた。

「メイナードさん、おはよう!」

「おはようリル、随分早起き出来たね」

 リルは楽しみでしょうがなかったのだと全身で訴える。

 タックルしてきたリルを軽々受け止めると、メイナードは笑った。

「絶対楽しいアスレチックにするから任せてよ」

 リルはグロリアが起きてくるまで、メイナードのお手伝いをした。

 

 途中でウサギ達がやってきて、地面に印を付けるのを手伝ってくれる。ウサギは穴掘りが得意のようで、印の部分に小さな穴を掘って分かりやすくしてくれた。

 次にタヌキ達がやって来てウサギに先を越されたことを嘆いていた。タヌキはいつも感情豊かだなと、リルは笑ってしまった。

 次にクマが、珍しく三頭もやってくる。力仕事のお手伝いに来てくれたらしい。人間は非力だから木材を扱うのは大変だと思ったようだった。優しいクマに感謝した。

 

 印をつけ終わる頃グロリアが慌ててやって来た。

「ごめんなさい、遅刻してしまいましたか?」

 メイナードとリルは早起きしすぎただけだと笑う。グロリアはホッとしたようだ。

「さて何から始めましょうか?魔力は満タンですから遠慮なく言ってください」

「印のある場所に柱を埋め込んで欲しいんだ。ちょっと多いけど、頼めるかな?」

 

 グロリアは印のある場所に魔法で穴を掘った。そこにメイナードが柱になる木材を入れる。また魔法で土をぎゅっとして完成だ。

 リルはすごいすごいと手を叩いて喜んだ。

 するとクマ達が真似をして柱を建て始めた。クマは土の魔法が得意なのだそうだ。メイナードは同じように柱を立てる場所をクマに教えた。リルは通訳である。

 

 最後の柱がもうすぐ建つという頃、グロリアが言った。

「せっかくだからリルもやってみますか?」

 魔法使いリルの出番であった。リルは大きく頷くと地面に穴ができるイメージをした。精霊に魔力を受け渡す。魔力を弱く細くするのも忘れない。すると地面には綺麗な穴が開いた。

「よく出来ました。今のは百点満点ですよ」

 周りで見ていた神獣たちが歓声を上げて褒めてくれる。いつの間にか神獣の種類が増えていた。

「次は固めてみましょうね。出来そうですか?」

 グロリアに言われ、リルは頷いた。

 固まれ、固まれとイメージする。すると土はギュッと固くなって柱を支えた。

「リルは本当に覚えが早いですね。よく出来ました」

 グロリアに拍手されてリルは誇らしげな気持ちになった。師匠に褒められるのは格別に嬉しい。

 リルは残りの柱を埋めるのを手伝った。

 

 ふと気になって、リルは柱の木材を持ってみる。重すぎて持ち上がらなかった。

「リル?何してるの?」

「重すぎて持ち上がらないの、メイナードさんは軽そうに持ってるのに……」

 メイナードは笑った。

「そりゃそうだよ、僕は『怪力』のスキル持ちなんだから!団長だってそんなの持てないと思うよ」

 新事実発覚でリルは驚いた。メイナードは騎士にしてはかなり細身だ。なるほどスキルのせいなのかとやっと納得できた。

「クマさんとどっちが強いかな」

 小さく呟いたが聞こえていたらしい。

 

 一頭のクマが乗り気でメイナードに勝負を挑む。メイナードも挑発されたのが分かったのだろう。乗り気で熊の手を掴んだ。互いに両手を握って押し合う。力は拮抗していた。みんな二人を応援している。

 汗をかいたメイナードが最後の勝負に出た。雄叫びを上げて思い切りクマを押す。クマは唸りながら押し返そうとするも、敵わなかった。メイナードの勝利である。

 メイナードは倒れたクマに手を差し伸べる。差し出された手をクマはグッと掴んだ。この瞬間確かに二人の間に友情が芽生えたのを感じた。周囲は大歓声である。

 

 その後、朝食の鐘が鳴ったので一旦朝食に向かう。クマたちは水場で休憩するようだ。

 リルは朝食の席であの歓声の理由を聞かれたので、メイナードがクマに勝った事を伝えた。

 団員たちは何を神獣と争ってんだという目でメイナードを見ていたが、リルは気づかなかった。

 結果友情が芽生えたのだから、終わり良ければ全て良しだろう。

 

 

 

 朝食が終わると、作業再開である。

メイナードは木の板を柱に渡して釘で打ち付け始める。これで空中に道ができるのだ。釘を打つ作業は神獣たちにはできないので、森の見回りに行く前の騎士たちも手伝っていた。リルは登るのは禁止と言われてしまったので、大人しく神獣たちをモフモフしながら作業を眺める。

 よく見ると、空中アスレチックは太陽の光を遮らない場所に建てられていた。お陰でヒョウとトラはご機嫌で日光浴を楽しめている。

 

 空中に道ができると、騎士たちはメイナードとグロリアを残して森の見回りに向かった。

 次はアスレチックに障害物を設置していく。直進部分にハードルを設置したり坂道を作ったりする。グロリアが設計図通りに木を加工して、クマさん達が木を上に渡すのを手伝っていた。琥珀は完成図が見えてきてソワソワしている。

 そして午後になってすぐに、アスレチックは完成した。

 琥珀は大喜びで空中アスレチックを楽しんでいた、神獣は頑丈なので、アスレチックくらいの高さだったら落ちても問題ないという。


「さて、次は小さい子用だな」

 メイナードが言った。小さい子用も作るつもりだったらしい。

 メイナードは空中アスレチックの前にもう一つアスレチックを作り始めた。更に、カゴに紐をつけてユラユラ揺れるブランコのようなものや、ツルツルの石材を使った滑り台まで作っていた。神獣たちは大喜びである。リルがどれが好きか聞いてみると、ブランコが大人気だったので急遽増設する。

 

 気がつくとヒョウが近くに来ていた。

『あの揺れるの、私も欲しいわ。大きいのを作れないかしら。日の当たる場所に置いて欲しいの』

 リルはヒョウの要望をメイナードに伝えた。メイナードはヒョウの体の大きさを測ると特注になるから数日待って欲しいと言った。

 ヒョウは大喜びで森へ帰っていった。相変わらず自由である。

 

 

 

 森から帰ってきた騎士たちは絶句していた。琥珀の分だけでは無い。神獣のための巨大なアスレチックが完成していたからである。どう考えても一日で作ったとは思えなかった。

 グロリアは魔力を使い切って、途中からリルに分けてもらっていた。お陰で二人も疲労困憊である。

 イアンはメイナードを自由にさせたのは間違いだったと気づいたが、時すでに遅しである。

 神獣たちはとても楽しそうにアスレチックで遊んでいた。神獣が喜ぶならいいかと、イアンは無理やり自分を納得させるしか無かった。

 

 後日ヒョウの為の籠ブランコがネコ科の子達に大人気になり、大量に増産されることになるのはご愛嬌である。

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