第13話 水飲み場

 魔法が使えるようになったリルは、帰ってきたイアン達に魔法を見せた。イアンは凄いぞと頭を撫でてリルを褒める。リルは皆から褒められてとても嬉しかった。

 グロリアがまだ一人の時には魔法を使ってはいけないと言うので、毎日練習は出来ないだろうが、いつか立派な魔法使いになりたいとリルは思う。

 

 リルはその日の夕食を、驚くほど沢山食べることができた。グロリア曰く、魔力を使うとお腹が減るものなのだそうだ。

 そういえばグロリアは毎日男の人と同じくらい食べていたなと思い返した。

 毎日魔力を使って沢山食べたら、早く大きくなるのかなとリルは考える。

 

 

 

 夕食後イアンがリルに言った。

「そういえば、神獣たちのための水場を作る許可が降りたぞ」

 リルは喜んだ。しかし水場の作り方が分からなくて困ってしまった。

 するとメイナードが助け舟を出してくれる。

「玄関前の広場に作るなら、水を引くよりため池のような感じがいいと思うよ。水を出す魔道具を使っていつでも綺麗な水になるようにするんだ」

 そんな便利な魔道具があるのかとリルは感動した。皆で水場の案を出し合う。

 メイナードが設計図を作ってくれた。

「地面を掘るんじゃなくて、上に浴槽を作るようなイメージで……一部に低い段差を三段くらい作って、小さい子も登れるようにしよう。水飲み場と水浴び場は別にして、水浴び場は地面に埋めこもうか」

 まるで魔法のように設計図が出来てゆく。メイナードは大工の才もあるようだった。

 リルは完成が楽しみでしょうがなかった。


「メイナード、お前自分で作るつもりなのか?」

 イアンは呆れた様子だった。普通大工に依頼するのに、メイナードは自分で作る前提で話しているからだ。

「あ……そうですね、つい」

 メイナードは気づいていなかったようで、気まずそうにしていた。

「いいのでは無いですか?メイナードが作っても、大工を呼ぶのは今は障りがあるでしょう」

 マーティンが暗にリルのことを示して言う。イアンは少し考えてメイナードに任せることにした。

 メイナードは嬉しそうだった。そんなに大工仕事が好きならどうして騎士になったのだろう。リルは少し気になった。

 

 

 

 翌日の朝、今日から水場づくりが始まる。リルは楽しみすぎて早く起きてしまった。琥珀と共に外に出ると、大きな台車があった。

 男性陣でまず材料を調達しに行くらしい。作業は午後からになるようだ。

 今日遊びに来ていた神獣たちが興味津々で彼らを見ていた。

 ちなみにヒョウとトラとリスとタヌキとウサギと鳥がいる。

 リルは丁度タヌキが居たので水飲み場を作るのだと説明する。タヌキはぐるぐる回って雄叫びを上げながら喜んでいた。

『ここにお水飲みに来ていいの?』

 ウサギも嬉しそうにジャンプしている。

 リルはイアン達が戻るまで、リスとウサギとタヌキと遊んだ。鳥たちも遊びに誘ったが、歌うのに夢中らしかった。

 ヒョウとトラは日光浴しながら眠っていた。

 遊び疲れて皆をモフモフしていた頃、イアン達が帰ってくる。

 

「おかえり!お父さん!」

 リルはイアンの脚に飛びついて台車の中を見た。石材が沢山入っていた。タヌキがやって来てまたぐるぐる回って喜ぶ。

『水飲み場!水飲み場!』

「タヌキさんが楽しみにしてたんだよ」

 リルはタヌキの通訳をする。みんなクスクスと笑いだした。

 先に朝食にしようと一旦家の中に入る。タヌキ達は玄関前で待っているそうだ。


 

 

 朝食を終えて玄関前に戻ると、メイナードがグロリアに石材をカットして欲しいとお願いする。

 どうするのだろうと思っていたら、グロリアは魔法で簡単に石材を切っていた。

 リルはそのかっこよさに感動する。自分もいつか絶対にこんなかっこいい魔法使いになると誓った。今は師匠であるグロリアの魔法をよく観察する。師匠の技は目で見て盗むものだと『みちるちゃん』も言っている。


「グロリアが居てくれると作業が早くて助かるよ」

 メイナードはグロリアがカットした石材を接着剤のようなもので組み合わせてあっという間に水飲み場を作ってしまう。

 リルも神獣たちも興味津々で作業を見つめている。リルが拍手するとリスとウサギも真似して前足を叩いていた。

 

 次に水浴び場を作る。グロリアはメイナードの指示通りに土を掘ると、メイナードはそこに石材を並べていった。よく見ると水飲み場から流れた水が水浴び場に、そして排水溝に流れるようになっていた。

 仕上げに接着剤を乾かす。一時間もしないうちに乾くようだ。リルがどうしてそんなに早いのか聞いたら、魔法で作られた高価な接着剤らしい。神獣絡みだと予算が下りるとメイナードが楽しそうにしていた。

 

 その間、残った石材で飛び石のようなものを作る。飛び石というより飛び跳ねて登る階段だろうか。どうやら小動物たちの遊び場のようだ。小さな神獣たちはみんな喜んで突進していた。ただ登るだけでも楽しいようだ。

 

 そうこうしているうちに、接着剤が乾いた。いよいよ水が出る魔道具を設置する。メイナードが魔道具のスイッチを入れると勢いよく水が流れ出した。水飲み場から水浴び場まで水が行き渡ると、神獣たちは勢いよく水に飛び込む。水浴び場はとても大きく作られている。大型の神獣たちも入れるようにだ。タヌキ達には湖と変わらないようで楽しそうに泳いでいた。

 

 いつの間にかトラとヒョウも起きてきていた。並んで水を飲んでいる。実にマイペースである。リルはトラたちの背をフカフカ撫でる。柔らかい毛並みが最高だ。

 

 こんなに早く水場が完成すると思っていなかったリルは、もう一つお願いしてみる事にした。琥珀用に大きなアスレチックを作れないかと思ったのである。

 琥珀はリルの守役になってから森に入っていない。思い切り遊ばせてやりたかったのだ。

 メイナードは楽しそうに案を考えてくれた。そして許可をもらいに見回りから帰ったばかりのイアンのところに走っていった。

 本当に楽しそうだなとリルは思った。

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