第12話 初めての魔法
今朝のリルは寝起きが悪かった。昨日は沢山遊んで料理を作って草臥れてしまったのだ。
『ほらリル、起きて朝よ』
ワンワン鳴く琥珀に顔をペロペロされてやっと起きられた。
ゆっくりと着替えをして顔を洗い、恒例の玄関に行く。
今日はどんな神獣たちが挨拶に来てくれているのだろう。
『今日もきっと大量ね』
琥珀は仲間に会えるのが嬉しいのか楽しそうだった。
玄関を開けると、今日も沢山の神獣たちがいた。今日のメンバーは纏まりが無さすぎる。
クマにタヌキにキツネにイノシシにシカにウサギにネズミ……みんな仲良しなのだろうかとリルは不思議に思った。
そして何故か一昨日来たはずのヒョウまで混じっている。
みんなを代表してなのか、クマがリルに話しかけた。
『ごめんね、みんな待ちきれないって言うから大勢で押しかけちゃって……これはみんなで集めたの、貰ってくれるかしら』
クマは大きな体だったがとても優しかった。大きな葉っぱに沢山の木の実や果物が乗っている。
リルはみんなに挨拶した。
「プレゼントありがとう!私はリルです。今日は来てくれてありがとう!」
そう言うと、色んな神獣たちがリルの周りに集まってきた。
『よろしくね』
『会いたかったよ』
みんな口々に挨拶してくれる。リルは一匹一匹抱き上げてモフモフした。みんなとっても可愛かった。リルは一気にお友達が増えてとても幸せな気分になった。
玄関前で日光浴しているヒョウになにか用事があるのか聞いてみると、ここは日光浴に丁度いいのよねと返ってきた。確かに拠点の周りは木を刈り取ってあるので日差しがよく当たる、騎士もいて安全だし悪いことは無いだろう。
「何時でも遊びに来たらいいよ」
リルはヒョウにそう言った。ヒョウはしっぽを振って完全に寝る体勢に入る。そういえばヒョウは夜行性かとリルはそっとしておくことにした。
その後は小さな神獣たちと追いかけっこして遊んだ。ウサギの足が思ったよりもずっと早くてリルは驚いた。あの小さな体にどれだけのパワーがあるのだろう。
クマはやはりみんなから一目置かれているようで、注意されると直ぐにみんな従った。聞いてみると、クマはみんなを守ってくれているらしい。優しいクマさんだった。
走り回って疲れてしまって、クマにもたれて休憩する。クマが瑞々しい果物をくれた。食べると喉が潤って、最高の気分だった。食べられる子はみんな一緒に果物を食べてのんびりと日光浴する。リルは日光浴大好きなヒョウの気持ちがわかる気がした。体がポカポカして気持ちいい。
そのまま朝食の鐘がなるまでまったりしてしまった。
『これで挨拶はおしまいだから、明日からはみんな自由に遊びに来るわね』
クマがそう言って去ってゆく。リルはとても楽しみだった。
みんな森に帰ってしまった。ヒョウだけはまだ寝ていたが、そっとしておいた。後で騎士たちに知らせておこう。
朝食を取りながらリルは今日のことを話す。森に異常はないこと、クマさんが優しかったこと、ヒョウさんが日光浴しに来ていること、そして明日からみんな自由に遊びに来ることを話した。イアンは少し顔を引き攣らせた。大群でやってこないかと心配したのだ。拠点は確かにかなり広大な敷地に建てられているが、先日のネコ科の集いは圧巻だった。
「皆に水場を作ってあげられないかな?」
実は今日、森の水場が少ないとタヌキに聞いたのだ。森の深いところには沢山あるようだが、タヌキは浅いところに住んでいるらしい、動物や魔物と取り合いになると悩んでいた。
神獣を守り、彼らの生活のために動くのが聖騎士団である。イアンは国に確認してみるとリルに約束した。
午後の見回り、今日のお留守番はグロリアだった。
グロリアはリルから見ると、まるでお姫様のように綺麗で優雅な人だ。
「リル、今日は私と勉強しましょう。団長にお願いされました」
グロリアはリルの手を取って庭に来た。勉強するのではなかったのかとリルは訝しんだ。
「今日は魔法の勉強ですよ」
グロリアが言うと、リルは飛び上がって喜んだ。とうとうリルも魔法が使えるようになるのだ。
「まずは魔力量を測りましょう。リルはまだ小さいですからこれから魔力が増えると思いますが、とりあえず今の魔力量を知っておきましょうね」
グロリアはリルにツルツルした石を持たせる。魔力量が多いほど石が光るらしい。石は光ってピカピカ点滅した。
「リルは魔力量が多いですね。きっと立派な魔法使いになれますよ」
「本当!私魔法使いになれますか?」
グロリアは間違いないと頷く。六歳で石を点滅させられる程の魔力を持つのは珍しい。
「では魔法について説明しますね、魔法は目に見えない精霊の力を借りて使います。精霊に魔力と引き換えに魔法を使ってくれるようお願いするのです。上手にお願い出来たら上手に魔法が使えます」
とても分かりやすい説明だった。
「リルは大丈夫だと思いますが、精霊に嫌われると突然魔法が使えなくなることもあるので注意してくださいね。精霊への感謝の気持ちを忘れないように」
ありがとうの気持ちは大切だと『みちるちゃん』が頷いている。
嫌われないように毎日祈ろうとリルは決めた。
「魔法を使うのに呪文は要りませんが、最初なので声を出してお願いしてみましょうね」
グロリアはロウソクを取り出すと、台の上に置いた。
「見ていて下さいね。『炎よ、ロウソクの火をつけて』」
グロリアが唱えると、ロウソクに火が灯った。リルは初めて見る魔法に大興奮で拍手した。
「『風よ、ロウソクの火を消して』それじゃあリルもやってみましょうか。火がつくところをよくイメージして下さいね。イメージが雑だと魔法は発動しませんよ」
『頑張れ、リル』
琥珀の応援にリルは集中する。精霊さんに魔力をあげて火をつけるイメージ……と一つ一つ頭に思い浮かべた。
「『炎よ、ロウソクの火をつけて』」
その瞬間、リルの体から何かが抜けていくのがわかった。ロウソクに火が灯る。火は青い色をしていた。
リルは感激して飛び回った。グロリアが優しく微笑んで拍手してくれる。
「少し威力が強い様ですが、よく一回で成功させましたね。魔法使いの才能がありますよ」
その言葉にリルは喜んだ、隣で琥珀も一緒に喜んでくれている。
「さあ、今度は火を消してみましょう。リルは魔力量が多いので、ちょっと弱く魔法を使うことを意識してください」
リルは再び魔法を使った。ロウソクの火は問題なく消えた。
「やはりちょっと強いですね。リルは魔力制御から学んだ方がいいかもしれません。怪我をしたら困りますから」
魔力制御とはなんだろうとリルは思った。
「ちょっと手を貸して下さいね」
グロリアはリルの手を握ると魔力を流し始める。不思議な感覚だ。
「魔力は普段はこれくらい細く、弱くを意識し使うものです。大きな魔法を使う時は別ですが、普段はこれくらいで十分なんです」
リルは自分の中に感じる魔力を確かめてみる。確かにゆっくりと細く弱く流れ込んでいる感じがした。
「では次はリルが魔力を流してみて下さい」
リルは一生懸命グロリアに魔力を流した。しかし中々上手くいかない。リルはうなりながら自分の魔力と格闘する。
そんなリルを見つめながら、グロリアは考えていた。
グロリアは家出してここにやって来た。王族に連なる貴族として血筋の確かな人と結婚して、決められた人生を歩むのが嫌だったからだ。同じように家を飛び出した、親戚であるイアンを頼ってここで騎士をしている。グロリアのスキルは『魔法師』。魔法に関しては最強だったからこそ騎士としてやっていけている。
グロリアはここに来て、自分がどれほど恵まれているのか知ったのだ。ここにはボロボロになった人間がよく捨てられる。人の死も沢山見ることになった。リルもそのうちの一人だ。
最初はただの家出だったが、今はこの仕事をやめたくないと思っている。リルのような子達を救いたい。助けたい。その思いは本物だった。
「そうです、リル上手ですよ。その感覚を忘れないようにしてください」
リルが嬉しそうに笑う、琥珀も一緒に喜んでいた。
グロリアはこれからもリルに色々な魔法を教えようと思っている。
『魔法師』である自分にはこれくらいの事しか出来ないから。
リルがずっと幸せに笑って居られるようにと、グロリアは祈った。
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