第11話 料理

 今朝もリルは幸せな気分で目を覚ました。

 隣で眠っている琥珀のフカフカした毛並みに顔を埋める。すると、外がなんだか騒がしいことに気がついた。

 この声は鳥だ。まるで歌っているような綺麗な音色だった。

 リルは急いで着替えて、琥珀と一緒に外に向かった。

 

 外はまだ日が昇ったばかりだった。玄関には無数の鳥たちがいた。

 半分眠ったような状態のフクロウまで居る。

『来たよ』

『来た』

 リルは鳥たちに挨拶した。

「リルだよ、よろしくね」

『リル、よろしく』

『遊ぼう』

 鳥たちはリルの周りを飛び回った。色んな種類の鳥がいて色とりどりで綺麗だった。鳥たちは歌う。それは本当に音楽のようだった。鳥の神獣は歌が得意らしい。


 鳥たちの声に、訓練をしてた騎士たちは玄関に集まっていた。幻想的な光景にため息をつく。中心にいるリルはまるで妖精のように見えた。

 一際大きな鷹達が森から飛んでくる。鷹は足で大きな枝を持っていた。それをリルに渡す。

『出会いの記念だ、この実は美味いぞ』

 受け取ったリルは重さに少しよろめいた。しかし、笑顔でお礼を言った。

「ありがとう、鷹さん!」

『騒がしくてすまんな。コイツらは歌うのが好きなんだ』

 鷹は呆れたように周りを見た。みんな歌いながら飛び回っていた。

 リルは楽しいからなんの問題もないと思っている。


 リル達はしばらくの間、鳥たちの音楽会を堪能した。

 一頻り歌うと、鳥たちは去っていく。

 また遊びに来てねと大きく手を振った。

 

 リルは騎士たちに鷹に貰った枝を見せた。これは森の奥にしかない果物で、とても高価なものらしい。

 朝食の後にみんなで食べようと言うと、皆喜んでいた。

 果物はとても甘くて美味しかった。ご飯の後なのに一個を一人で食べてしまったくらいだ。リルは沢山食べた方が大きくなれるから大丈夫だと自分を納得させた。

 実際リルが沢山食べる度に、騎士たちはホッとしているので何も間違ってはいない。

 

 

 

 午後になると恒例の森の巡回だ。今日のお留守番はメイナードだった。

 リルは何をして待っていようか悩んでいた。

「リル、面白いものを作ろうか」

 メイナードはそう言う。何を作るのだろうかとリルが興味を抱いていると、一緒に手を繋いで倉庫に連れられた。

 メイナードは木の板とロープ、そして大工道具を取り出した。

 まず木の板に二つの穴を開けた。そして木の板に丁寧にヤスリをかける。これはリルも手伝った。

 穴にロープを差し込んで結ぶと不思議な形になった。

 今度は森の入口にある大きな木にロープを括り付ける。

 ブランコだ!やっと何か分かった。リルは嬉しくて飛び跳ねた。

 リルがブランコに乗ると、メイナードが背中を押してくれる。

 最初は少し怖かったが、だんだん楽しくなってきた。

 

 琥珀がリルの周りをぐるぐる回っている。どうやら琥珀も乗りたいらしい。

 琥珀が木の板の上でお座りすると、リルが背中を押してやる。二人で交互に遊んで、ずっと笑っていた。

 

 気がつくとメイナードは、また違うものを作っていた。竹に足場を括り付けて出来たそれを、リルは『みちるちゃん』の記憶で知っていた。そう竹馬だ。

 リルは慎重に乗ってみる。足場の位置が高いのでメイナードが補佐をしていた。次第にバランスが取れるようになってきて、手を離されても大丈夫になった。視界が高くてとても楽しい。

 リルは夢中で走り回った。一頻り遊ぶとリルは疲れ果てていた。

 休憩しながら聞いてみる。

「メイナードさんはどうしてそんなに色々作れるんですか?」

「実家が大工なんだよ。父さんが小さい頃から色々作ってくれたからね、覚えてたんだ」

 大工さんとは家を作るものだと思っていたリルは驚いた。玩具も自分で作れるんだなと感心する。

 

 その後もメイナードは駒や草笛など様々な遊びをリルに教えた。リルが疲れ果てて眠ってしまうまで、それは続いた。

 メイナードは琥珀と一緒にリルをベッドへ運んで、ミレナの手伝いに向かった。

 


 

 夕食前、目が覚めたリルは部屋を出た。食堂へ行くとミレナとメイナードが夕食の支度をしていた。皆はまだ戻っていないらしい。

「リル、起きたの?ならちょっとお手伝いしない?」

 お手伝いと聞いてリルはやる気に満ち溢れた。料理のお手伝いは初めてだった。

 今日のメニューは煮込みハンバーグで、たくさんハンバーグを作らなければならないらしい。リルはお肉を綺麗にまとめる係に任命された。責任重大である。

 ミレナさんの真似をして小判型のお肉のボールを作る。そして少し高いところから何回か落として空気を抜いた。ちょっと形が崩れてしまった。綺麗に整え直して完成だ。

 リルは沢山ハンバーグを作った。騎士のみんなは沢山食べるので頑張った。ミレナがリルの作ったハンバーグをフライパンに入れてどんどん煮込んでゆく。美味しそうな匂いが充満した頃、騎士たちは帰ってきた。

 

「お父さん!リル、ハンバーグ作ったよ!」

 イアンはエプロンをつけて厨房にいるリルに驚いた。ハンバーグを作ったと聞いて思い切り褒めてやる。料理はまだ早いと思っていたが、リルはどうやら器用らしかった。見たところ形が崩れたりはしていない。

 イアンは味わって食べた。リルが不安そうにイアンを見つめていたから、食べて感想を言わなければならない。ハンバーグはとても美味しかった。リルを褒めると安心したように笑った。

 他のみんなも口々に感想を言う。ルイスと琥珀まで食べてはワンワン吠えていて、微笑ましい空気で満ちていた。

 リルの初めての料理は大成功に終わったのだった。

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