第10話 スキル

「お父さん、おはよう」

 今日は早起きすることのできたリルは、イアンの部屋に駆け込んだ。折角だから目覚まし時計になろうと思ったのだ。

 しかし、予想に反してイアンは起きていた。リルは少し膨れっ面になった。事情を聞いたイアンは大笑いする。リルはますます膨れっ面になった。

「悪かった、起こしに来てくれてありがとうな」

 イアンはリルを抱え込むと玄関に向かった。

「今日も神獣が挨拶に来てくれるんだろう?今日はどんな神獣かな?」

「そう、どんな子が来るか楽しみなの!」

 機嫌を直したリルは、外にいるであろう神獣に思いを馳せる。今日もフカフカな子達だといいなと思う。

 イアンは入口のドアを開けた。そこには予想外の光景が広がっていた。

 

 玄関前を覆い尽くすほどの大所帯がそこで日光浴をしていたのだ。

 種類はざっと見る限り、ライオンにトラにヒョウに、ネコ科の神獣勢揃いであった。リルは大興奮である。

 

 二人に気づいたライオンがやって来る。

『お前が『通訳者』か、皆で顔見せに来たぞ』

 皆こちらに気づいたようで、寛ぎながら首を二人に向けている。なんだか自由な感じだ。

 イアンはリルを下ろしてやった。

「初めまして、リルです。いっぱい来てくれたんだね」

『本当は今日は我々の番だったのだが、みな待ちきれないと付いてきてしまった。許してやってくれ』

 ライオンはすまなそうに頭を下げた。

「大丈夫、みんなに会えて嬉しいよ」

 リルはそう言うとトラやヒョウにも挨拶した。一緒に日光浴しようと誘われたので、ヒョウたちの中に潜り込む。フカフカに囲まれて気持ちが良かった。

 

 イアンはその光景を微笑ましげに見る。すると一匹のライオンがこちらにやって来た。ライオンはウサギのような魔物を咥えていた。そしてリルの方を見る。

「リルにプレゼントだろうか?」

 ライオンは頷くと獲物を置いた。

「ありがとうございます、リルも喜びます」

 イアンは美味しく食べられるようにと血抜きに向かった。

 その間リルの面倒は神獣たちにみてもらおう。琥珀だけでは不安があったのでルイスも置いて厨房に向かった。


 リルはいつの間にか眠ってしまっていた。日光浴とヒョウたちの毛並みが想像以上に気持ちよかったからだ。リルは朝食の鐘の音で目を覚ました。ネコ科族もタイムリミットだと気づいたようで口々にまた遊びに来ると言って去ってゆく。

『リル、これをあげるわ』

 一匹のトラが石を咥えて持ってくる。

『人間はこれが好きなのでしょう?』

 それは赤い色をしたキレイな石だった。ありがとうとお礼を言うと、みんな並んで去ってゆく。

 

 手を振ってお別れすると、振り返る。イアンが待ってくれていた。

「お父さん、トラさんにプレゼントを貰ったの!」

 リルは貰った石をイアンに見せた。

「これは凄い、大きなルビーの原石だな。職人が磨くともっと綺麗な宝石になるんだぞ」

 リルは綺麗な物を貰えて嬉しかった、磨くともっと綺麗になると言うが、このまま持っておこうと思った。

 

「さっきライオンさんもお肉をプレゼントしてくれたぞ。夕食に出してもらおうな」

 ライオンさんにはお礼を言っていなかった。次は必ずお礼を言おうとリルは決意した。

 

 

 

 午後になると、みんな森の巡回に出かける。そういえば、ライオンさん達に森の様子を聞くのを忘れていたと、リルは気づいた。もうどうしようもないので、ルイスが帰ってきたら聞くことにした。

 

 今日のお留守番はマーティンであった。

 みんなを見送ってマーティンと拠点にもどる。

「リルは今日予定はありますか?」

 リルは首を横に振る。

「では、お茶に付き合ってくれますか?お茶を入れるのが趣味なのです」

 流石イケおじ、お茶が趣味とは何だかかっこいい。リルは一緒にお茶を飲むことにした。


「あれ?お茶なのに甘い!」

 マーティンの入れるお茶はとても美味しかった。聞けばマーティン自身がブレンドしたお茶なのだという。琥珀も気に入ったようだった。

 美味しいお菓子をつまみながらお茶を飲む、なんて優雅な時間だろう。リルは心が落ち着くのを感じた。

 マーティンは話し上手で退屈しない。リルはマーティンの話に夢中になった。今日一日でとても賢くなった気がして、マーティンは凄いと思う。

 リルはお茶の淹れ方も教えてもらった。今度お父さんに淹れてあげよう。

「入れ方は覚えられましたか?」

 リルは笑顔で頷く。

「それは良かった、私のスキルは『記憶』なのです。だから普通の人がどれくらいの事を覚えられるのかよくわかりません。忘れてしまったら何時でも聞きに来てくださいね」

 それはとても便利なスキルだ。リルは羨ましいと思った。

 マーティンはその後絵を描いて見せてくれた。本物そっくりだった。どうやら記憶のスキルは色々なことに使えるらしい。スキルのことももっと勉強したいなとリルは思った。

 

 

 

 その日の夜はお肉パーティーだった。巡回の時に銀狼達もまた獲物をくれたようだ。寒くなって来たのでお鍋にしてどんどん追加で肉を入れられるようにされていた。今日はミレナも一緒に食べている。ミレナは未亡人だ。だから一人で暮らしている。たまに騎士たちと一緒に食事をとるのがミレナの楽しみであった。

 

 一方リルもお鍋は楽しいと思っていた。皆でワイワイ食べる食事はより美味しく感じられた。いくらでも食べられるような気がする。料理とは不思議なものだとリルは笑った。

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