第4話 紹介
「そうだ、リル。外に行こう」
唐突なイアンの発言に、リルは不思議そうな顔をする。それに笑って頭を撫でてやると言った。
「リス達が様子を見に来てくれているぞ」
リス達はリルを助けてくれた恩人だ。様子を見に来てくれた事が嬉しかった。リルは駆け足で外に向かう。
扉を開けると、リルは裸足のまま外に駆け出した。キョロキョロと辺りを見回すと、森との境界の近くにたくさんのリスがいた。リルはリスたちの元に飛び込んだ。
「リスさん達、昨日は助けてくれてありがとう!」
『大丈夫?』
『平気?』
リスたちが口々に話しかけてくる。
「大丈夫だよ、リスさんたちのおかげだね」
『良かった』
『これあげる』
リスたちはそれぞれ手に何かを持っていた。受け取ると、それはドングリだった。
「いいの?みんなのご飯じゃないの?」
『あげる』
『美味しいの』
『食べて』
みんなリルの体によじ登ってドングリを差し出してくる。フサフサのシッポがくすぐったかった。
「じゃあ貰うね、ありがとう!」
リルは貰ったどんぐりを齧ってみる。ちゃんと甘くて美味しかった。『みちるちゃん』の記憶ではドングリは渋い食べ物だったはずだが、ちゃんと甘いのもあるらしい。
「美味しいどんぐりを選んでくれたんだね、ありがとう」
『見分け得意』
『甘いの探す』
リスたちの特技は甘いドングリを探すことのようだ。
「そうだ!私の名前、リルになったんだよ!ちょっとリスさんたちに似てるよね」
『似てるね』
『仲間?』
リスたちを撫でながら、リルは楽しく会話する。
その光景を、イアンたちは驚き半分感心半分で見守っていた。
「団長『通訳者』って凄いんですね。ここまでとは思っていませんでした」
「初代国王陛下もあんな風に神獣たちとの契約を成し遂げたのでしょうか?」
ロザリンもグロリアも歴史の一ページに立ち会っているような気分になっていた。
そうしている間にも、リルはどんどんリスたちに埋もれていく。
『みんな挨拶来る』
『順番』
リス達はリルに告げた。
「そっか、じゃあ毎朝ここに来るね」
リルは新しい友達ができそうな予感に胸を高鳴らせる。一体どんな動物たちが来るのだろうと楽しみになった。
リス達と存分に戯れると、リルはイアン達の元に戻った。そしてリス達との会話を報告する。賢いリルはちゃんとリス達に森に異常がないかを聞いていたのだ。
報告を聞いてイアン達は感心した。偉いぞと頭を撫でる手はどこまでも優しい。リルは役に立てた喜びに有頂天になった。
「明日も他の子達が挨拶に来てくれるの!」
そう言うと喜びのあまり飛び跳ねてしまった。それはとても子供らしい仕草で、イアン達は安堵する。子供は子供らしくが一番だ。早く心を許して甘えられるようになって欲しいと、皆思っていた。
さて、次はリルに拠点の常駐騎士たちを紹介しなければならない。
ここに常駐している騎士たちは少ない。基本神獣の様子を観察して異常がないか見張るだけだからだ。有事の際は本部に連絡して応援を呼ぶ。この拠点の常駐騎士たちはイアンを入れて六名。リルに紹介していない聖騎士は三名だ。
リルはイアンに抱かれながら拠点の中を進む。途中でロザリンが拠点の事を説明してくれるのを頑張って覚える。
そして拠点を通ってやって来た広場のような庭で、三人の騎士に出会ったのだった。
イアンが呼ぶと騎士たちは集合する。リルは緊張しながら挨拶をした。
「リルです、今日からここで働くことになりました。よろしくおにぇがいします!」
緊張しすぎて少し噛んでしまったのが恥ずかしかったが、イアンが頭を撫でてくれたので及第点だろう。リルは無理やり自分を納得させた。
「俺はヘイデン・クーパー、副団長な。よろしくリル」
騎士というには軽そうな男がリルに手を伸ばす。雑に頭を撫でられてリルは目を白黒させた。乱れた髪をロザリンが直してくれる。
イアンは呆れた様子でヘイデンを見ていた。
「私はマーティン・バトラーと申します。歓迎しますよ。小さな新人さん」
彼はこの中で一番歳をとっているように見えた。イケおじだ!と『みちるちゃん』が興奮している。
「メイナード・ファイファーだよ。よろしくね」
最後の若いお兄さんは屈んで挨拶してくれた。小さなリルに合わせたのだろう。その優しさが嬉しかった。
リルは何度も心の中で名前を復唱した。しっかり記憶しなくては失礼だと頑張っていた。
騎士たちのリルを見る目はどこまでも温かい。彼らは今まで何人もの捨て子を保護していたので、子供は守る対象だと強く思っている。
捨て子を拾うことが多い関係上、ここには優秀な若手や女性が多く配属されているが、リルにはいい環境かもしれない。そうイアンは思っていた。
午後になると、王宮からリルを継続して保護するように通達が来た。イアンは安堵する。そして王宮の方からリルのスキル判定のために人を寄越してくれるらしい。至れり尽くせりだ。
イアンはロザリンを呼んで、取り急ぎ必要なリルの日用品を揃えるように命じた。リルは今日拠点の外も裸足で歩いていたから気になっていたのだ。早急に靴を買わないと怪我をするかもしれない。
ロザリンはリルを呼んでサイズを測り始めた。六歳だと聞いていたがリルは一般的な六歳児よりかなり小さい。それなのに子供のように泣くこともなければ、ワガママも言わないのだ。それがとても悲しく感じた。
リル本人は我慢していると言うより、前世の記憶のおかげで精神年齢が少し上がっているだけなのだが、誰もそれを知らなかった。
飛びっきり可愛い靴と服を買ってこよう。お菓子も忘れないようにしなければとロザリンは決意した。
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