第10話
「リリィ!」
レインがリリィを監禁していた部屋に魔法陣が現れ、ユリスの姿が現れた。
「な、どうしてお前がここに!?それにここは僕以外の魔法は発動しないようになっているはず……」
レインがユリスを見て動揺した次の瞬間。ユリスの拳がレインの片頬にヒットする。爆風がレインを押し出し、そのままレインは吹っ飛んだ。吹っ飛びながらレインの体は部屋と言う部屋の壁を次々に粉砕し、どこまでもどこまでも吹っ飛んでいく。そうして何部屋の壁を壊しただろうか、吹っ飛ぶレインの体は止まった。崩れ落ちたレインは片方の顔面がひしゃげ、口から血を流して気絶している。
(ま、まさかの、物理攻撃?でも風魔法でさらに威力が増していた……)
目の前の光景に唖然とするリリィの元に、ユリスはすぐに駆け寄り拘束魔法を解く。
「大丈夫?」
「あ、は、はい……」
ユリスはリリィの際どい胸元を見て眉を顰め、すぐにリリィの襟のボタンを閉めた。
「あ、ありがとうございます。でもユリスさん、どうしてここが……?それにここはレインくん以外の魔法は発動しないって……」
「あぁ、あの時、咄嗟にリリィへ位置を感知する魔法をかけておいたんだ。あと、あいつの魔法なんて俺には意味ないから」
上級魔法を使える人間とはこう言うものなのだろうか、とにかくリリィは唖然としてユリスを見つめていた。すると、突然ユリスに抱きしめられる。
「無事でよかった……本当に。ごめん、俺が一緒にいたのに怖い思いをさせて」
突然のことにまたリリィは唖然とするが、すぐに両目いっぱいに涙が浮かんでくる。そして静かに泣き出した。
「……ごめん、本当に」
「……う、怖かった……ヒック……ユリスさん……」
きつくしっかりと抱きしめるユリスの背中にリリィの両手が回る。そのまま二人はしばらくの間抱きしめあっていた。
どのくらいそうしていただろうか。リリィが落ち着きを取り戻すと、ユリスがリリィの顔を覗き込む。
「リリィ、ここには研究課の人間が乗り込んでいる。何か思い出したことやあいつが言っていたことで気になることがあったら教えて」
「……両親からもらった形見のネックレスがあったんです。それがどうやら赤い雫だったみたいで取られてしまいました。でも、そのネックレスはオニキス色の石がついているんです、赤くないし魔力も感じられないのはどうしてかって聞かれたんですけど、全然わからなくて……」
リリィの話にユリスは顎に手を添えて考え込む。その赤い雫に魔力がないのがおかしいというのはどういうことだろうか。
「リリィ、研究課に来る前に健康診断で魔力検査をしただろ?その時、おかしなことが起きなかった?」
「確か、魔力検査用の水晶が私の検査の時に壊れてしまいました」
その時は検査員の人たちが随分と驚いていたが、結局は水晶の老朽化ということでその場は落ち着いた。だがそのすぐ数日後に、リリィは突然総務課から研究課への移動が決まったのだった。
「リリィの魔力量が異常に感知されたんだ。水晶の老朽化というのはその場しのぎの嘘で、どうして今まではごくごく普通の魔力量だった人間から突然異常な魔力量が感知されたのかを調べるために、リリィは研究課に異動になった。リリィを怖がらせないために、リリィが第一部門に慣れてから言うつもりだったんだけど」
どうやらその魔力量の原因はもしかするとその赤い雫というものが原因なのかもしれない。だが、魔法研究機関の人間がなぜそれを執拗に狙っていたのか。
「そう、だったんですね……」
何も知らなかったリリィはぼんやりと床を見つめて静かに呟いた。それからふと思い出したようにユリスの顔を見つめる。
「そういえば、意識を取り戻す直前に夢を見ていたんです。多分昔の記憶だと思うんですけど、両親がいてネックレスを渡されて。悪い人の手にこれが渡った時はあの呪文を唱えてって言われたんですけど、その呪文が何だったのか思い出せなくて……っ!」
そう言いながら急にリリィは顔を顰めて頭を押さえた。
「リリィ?」
「すみません、あたま、が……痛くて」
「無理して思い出そうとしなくていい。とにかく一度みんなのところへ行こう」
ユリスがリリィを助け出している頃、エデンたちは同じ建物の別フロアで白いローブを羽織った魔法使いたちに囲まれていた。人数だけでいえばエデンたちは圧倒的に不利な状況だ。
「国の犬どもが不法侵入とは」
「部下が拉致監禁されている、助けに来ただけだ」
エデンがそう答えた瞬間、双方の間に火花が走る。エイルやベリアたちも他の魔法使いたちと交戦が始まった。
「
「
フロア全体で雷や氷、炎や風などありとあらゆる魔法が繰り広げられている。魔法で言えばエデンたちが圧倒的に有利だった。あっという間に白いローブを羽織った魔法使いたちは倒れ、拘束魔法をかけられる。その場に突然魔法陣が現れ、ユリスとリリィがいた。
「リリィちゃん!」
「無事だったんだな、よかった」
ベリアたちが嬉しそうに言うと、リリィは控えめに微笑んでからお辞儀をした。
「私のせいでみなさんにご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありません」
「いや、こちらももっと早く話しておくべきだった。リリィからも話を聞いていればこんなことにはならずに済んだかもしれない。こちらこそ申し訳ない」
エデンがそう謝罪すると、他のみんなも大きく頷く。その様子を見て、リリィは胸が熱くなっていた。
(みなさん本当に優しい人たちばかり……)
「俺も謝らなきゃいけないな。歓迎会の日、リリィちゃんに魔法薬を飲ませて眠らせたのは第二部門だ。第一部門より先にリリィちゃんを調べようとしたんだが、するべきことではなかった。本当にすまないと思っているよ」
いつもはキラキラとした笑顔を向けるロベリオが真剣な顔で謝るので、リリィは戸惑ってしまう。
「いえ、確かにされたことは許せませんが、そのおかげでこうしてユリスさんと親しくなることができたので……もうそんなに気にしないでください」
「リリィちゃんならそう言ってくれると思ったよ」
「ロベリオさん、調子に乗らないでください」
ユリスが冷ややかな顔で言うと、ロベリオは肩をすくめてフッと微笑んだ。その様子を見て、エデンが口を開く。
「よし、この話は一度ここで終わりにしよう。この先の部屋から嫌な感じがする。急ごう」
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