第9話
「リリィが見知らぬ男につれ拐われた!?」
「……申し訳ありません、俺がついていながら」
リリィがレインという男と共に姿を消した後、ユリスはすぐに研究課第一部門へ戻りエデン部門長たちへ報告していた。ユリスの悲痛な表情にみんなどう声を掛ければいいのかわからなくなっている。
「その男はリリィの知り合いなのか」
「施設で共に過ごしていたと言っていました。会うのは施設を出て以来だそうですが、相手はどうやらリリィをずっと付け回していたようです。おそらく部屋を荒らしたのもデータベースに侵入したのもそいつだと思います」
ユリスはいたって冷静さを務めているが、声には怒りがこもっているのがよくわかる。
「何か手がかりは」
「……その男の着ていたローブに紋章がありました。見覚えがあります」
そう言ってユリスは第一部門メインのウィンドウを開き検索する。そこにはとある魔法研究機関の紋章が浮かび上がっていた。
「ここは……確か民間の魔法研究機関だな。国にも認可されている魔法研究機関がこんな手荒な真似をするということは、何かよっぽどのことがあるのだろう」
「この紋章がその変な男の着てたローブについていたわけね?」
ベリアが聞くと、ユリスは真剣な顔で頷いた。
「それから赤い雫を探していると言っていました。リリィは最初何を言われているのかわからない様子でしたが、途中で何かに気づき、その男がそれを見てリリィを……」
ユリスはその光景を思い出し歯を食いしばる。目の前でリリィがつれ拐われたのだ、どれだけの苦しみだろうか。その場が静寂に包まれる。
「その男の目的はその赤い雫というものなのだな。我々が知らない何かをリリィは持っていたのだろう。そしてそれがリリィ自身に関係している。早く救出しなければまずいかもしれないな」
エデンの言葉にユリスはキツくキツく拳を握った。
「場所ならもうわかっています。すぐにでも行かせてください」
「……そうか、だがあの研究機関には上級魔法を使えるものが多くいると聞く。対抗するために第二部門のロベリオにも援護を頼むがいいな?」
エデンの言葉にユリスは一瞬目を見開いたがすぐに真剣な顔で頷く。
「こうしている間にもリリィの身に何か起こっているかもしれない。一刻を争う、みんな心して対応してくれ」
「はい!」
エデンの号令に第一部門の全員が威勢よく返事をした。
『……ね、ごめんなさいね、リリィ。あなたをこれ以上巻き込むわけにはいかないの。これはあなたに託すわ。もしもこれが悪い人の手に渡ってしまった時は、あの呪文を唱えて。そうすればこれがあなたを、全てをきっと守ってくれるわ。愛してる、リリィ』
(おか、あ、さん……?それに、隣には、おとうさん、も……)
フッとリリィは目を覚ました。視線の先には天井が見える。
(あれ?私、一体何を……)
そうしてゆっくり起き上がってから、自分の体を拘束する拘束魔法の束に気づいた。それから、近くの椅子に座って自分を嬉しそうに見つめている一人の男にも。
「……レインくん!どうして!」
「おはよ、リリィちゃん。よく眠れた?うなされてたみたいだけど」
フフッと微笑むレインは美しい顔立ちなのにどことなく恐ろしい。
「ここはどこ?どうして私は拘束されてるの?……ユリスさん!ユリスさんは!?」
「……なんであの男のことなんか心配するの?リリィちゃんはそんなこと心配しなくていいのに」
静かにため息をついてレインはつまらなそうに言った。リリィは拘束魔法を解除しようとするがリリィの魔法が発動しない。それを見てレインは楽しそうに笑って言った。
「無駄だよ、この部屋は僕以外の魔法は発動しないように仕組んであるから」
「どうして……あなた一体何が目的なの?赤い雫って一体……」
そう言ってから、リリィは自分の首にかけていた大切なネックレスが無いことに気づく。魔法省の制服のボタンが胸元ぎりぎりまで開かれ、そこにあるはずのネックレスが無くなっていた。それは両親からもらったオニキス色の石が一粒ついたネックレスだ。
「あれはもう回収したよ。君がずっと大切に隠し持っていたんだね」
「どうして!あれは大切なものなの!返して!」
「だめだよ、僕たちはずっとあれを探していたんだから。ようやく手に入れることができた。でも、赤い雫のはずなのにどうして真っ黒なんだろう。魔力だって全然感じられないし。何か秘密があるの?」
レインはそう言ってリリィの顎に手を添え上を向かす。リリィを見つめるレインの顔は愉悦に歪んだ顔をしている。
「あれはただのネックレスよ!何も知らないわ!返して!お願い!」
「返してほしい?返してほしいなら僕の言うことなんでも聞いてくれる?聞いてくれるなら考えてあげてもいいけど」
そう言ってレインはリリィの顎に添えていた手をゆっくりと下に降ろしていく。人差し指でゆっくりゆっくりとリリィの首を這わせ、ボタンが止まっている場所まで到達した。
「レインくん、何を」
「僕は小さい頃からずっとリリィちゃんのことが好きだったんだよ。リリィちゃんだって同じだと思ってた。なのにリリィちゃんは僕を置いて先に施設を出て行ってしまった。悲しかったな」
そう言ってレインは止まっているボタンを指で楽しそうに弄ぶ。レインのその様子にリリィは青ざめ、レインの指がボタンを外してしまう、その時だった。
「リリィ!」
突然部屋に魔法陣が浮かび上がり、ユリスの姿が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます