第22話 同族嫌悪
本気で人を殺す時、どこを狙うべきか。
頸動脈や心臓、男だったら恥部もいいな。
人それぞれ違うだろうが、俺は眼球だと思う。一発で仕留められるとは限らないのだがら、まずは視界を奪って優位に立つ。頸動脈などはそれからゆっくり狙えばいい。
「アァぁぁァ!!!」
だから、ポケットに隠していたらしいまち針で俺の眼球を狙ってきた手嶋夏美はセンスがある。
しかし、狙いが甘い。簡単に避けられた。
勢い余ってすっ転ぶ手嶋夏美。左膝から出血していたが、そんな傷、俺を官能的らしい格好にした女が抱えている傷に比べたら屁みたいなものだ。
今まで高い場所で殺し合いを見物するだけだったケツがここで回ってくる。
「板垣きらりは、ナイフ捌きも拳銃の扱いも立派なもんだったぞ」
「あ?」
「楽しかったか?自分の思い通りに動く人形を見つけて」
先ほどまでの怒りの表情が変わり、無の顔になる。
人間は何もしていない瞬間も何かしらの感情は宿していると思う。退屈なども立派な感情に数えられるらからだ。
この表情には覚えがある。
カルマを失った時に、俺もこんな顔をしていた。自分のせいなのに悲劇の主人公を気取って意識的に暗い顔を作りにいく醜い顔。
再び、突進してくる。
こいつの性格を考えると、何か作戦を練ってから次の攻撃に移りそうなものだが、丸腰で挑んでくる。
愚かだなぁ。俺に似て。
ここで手加減して気絶させられたら格好いいんだろうが、そんな器用なことはできない。
重いパンチを鳩尾に喰らわせる。
「ヴェォォぉ!」
一口ゲロを吐いてその場に倒れる手嶋夏美。
‥‥‥また、女子高生の吐瀉物を掃除するはめになった。
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車の運転はいつになっても緊張する。
たかが移動なのに、命の危険があるのだ。緊張しないわけがない。
よく、ご高齢の方がアクセルとブレーキを間違えて踏んでしまい大事故を起こした。みたいなニュースを見る。
多くの同年代は、「そんなのどうしたら間違えるんだよ」と怒り半分、嘲り半分を込めて言う。しかし、俺からすると明日は我が身では無いと限らないと思うんだ。
いつ、如何なる時も完璧な運転ができるなんて自信を持てない。
特に俺のような社会のはみ出し者は、考えられないミスをする可能性がある。
「‥‥‥プハぁ!」
だから、運転する前には必ずレッドブルを飲むようにしている。気が引き締まる気がするし、味も普通に美味しいから一石二鳥だ。
「おい。私も喉乾いた」
車内には、さっきまで殺意丸出しだった手嶋夏美がいた。
その姿は、死刑囚が着るような不安を煽るほどの白い服に身を包んでいた。お洒落とはお世辞にも言えないが、頑丈さは保証する。
何故なら、俺が虹山さんに確保された時もこの服を着させられたからだ。
昔の俺は息を吸うように人から恨みを買っていたものだから、護送中にも殺そうとする奴らがいたのだ。
この服は、そいつらの攻撃を全て無効にした。
何でできているのかは分からない。裏方の皆さんに聞いても教えてくれなかった。
「おい。飲み物」
しつこく水分を要求される。
「分かった分かった。ほれ」
俺は力水を差し出す。サイダーと何が違うのかよく分からないことに定評のある、アレだ。
「‥‥‥久しぶりに見た」
不思議そうにしていたが、不満はないようだったので車を発進させる。
よし。絶対安全だ。
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